白き瓶

明治三十七年 伊藤左千夫 「小生は常に新聞などで、児を捨てて召集に応じた、妻を離別して奮起したなどといふ、報道を見る度に、甚だ不快に感ずるので、そんなことは皆虚説であると思ひ居り候、真に死を覚悟しての首途に,親と別れ妻子と別れこれを最後の見…

久保猪之吉と長塚節

久保猪之吉と長塚節 のぞみ多き春よことしの此のゑまひとこしへに消えずあれとのみ 久保猪之吉 久保猪之吉の父は福島二本松藩士。猪之吉(1874~1939)は、東京帝国大学卒業後イタリアに留学し、帰国後京都帝国大学福岡医科大(現九大医学部)教授。たまたま…

工藤正廣

GESCHICHTE(ゲシフテ) 去年ウナムーノをかじったとき最初に自分で作った西文は「La(ラ) vida(ヴィーダ) es(エ) la(ラ) literatura(リタラトゥーラ)」だった。「人生は文学だ。」 そのときむりやりに読んでいるものにピッタリだと思った。かじっただけだけど…

後藤利雄

後藤利雄(山形大学。専門は万葉集。)「邪馬台国と秦王国」 ○倭 また騰黄神獣有り、その色は黄、状は狐のごとく、背上に両角竜翼有り、・・・日本国に出づ、寿三千歳、黄帝得てこれに乗り、遂に六合(くに)を周旋す。・・・―― 『雲笈七籤』巻一百「軒轅本紀…

美浜日記2020/07/04

こちらに「なし」という言葉がある。 東京弁でいうなら「なぜ」。 ただし、「なぜ」とちがってじつに頻繁に使われた。 大人の言うことに「?」を感じた子どもは即座に(相手が親でも先生でも)「なし?」語尾は上がらない。だから小学校の先生はつねに「なし…

美浜日記 國分功一郎

國分功一郎 『中動態の世界』を読み終えて、言葉が出なくなった事情を少しだけ書きます。 「自由を追求することは自由意志を認めることではない。中動態を論ずるなかでわれわれは何度も自由意志あるいは意志の存在について否定的な見解を述べてきた。もしか…

五つの物語

五つの物語 <1> あると 体がすっと持ち上げられた。 これまで経験したことのない高さになったが、ちっとも怖くなかった。 あたかい胸に抱かれて喜びでいっぱいになったとき、 彼女は母親のことも兄弟のことも、すべて忘れていた。 少年は子犬をあるとと名…

今山物語 文学史

高校一年生のための 一気読み日本文学史 福岡編 <一> 最初に、文学とはなにか、の話をしておきたい。 文学は、物語や戯曲(ぎきよく)(お芝居の台本)や随筆や詩や歌だけを指すのではない。人々の心に残る言葉の総体を文学と呼ぶ。 たとえばフランスには、亡…

今西錦司『生物の世界』

今西錦司『生物の世界』 ※「生体と物体」とか「空間と時間」のような二項分立では、この世界を語ることはできない、ことの 説明の部分。 「空間的即時間的であるということがこの世界の構成原理である以上、その存在が構造的即機能的でなければならないのは…

浅野俊哉

スピノザ<触発の思考> 浅野俊哉序 スピノザの思考の根幹にあるのは、たとえば「無媒介性」(あるいは弁証法/目的論の拒否)、「外部なき思考」(あるいは内在性)、「力」(あるいは力能/能力)、そして「触発」(変様)といった概念――これらはどれも一…

美浜日記④消えてゆく物語続

映画『消えていく物語──デカ・チビ・ノッポの冒険』覚え書き③ 三人はサーカスに雇ってもらう。 トイレ掃除、荷物運び。曲芸師たちの衣装の手入れ、下着の洗濯。仕事は山ほどある。 新しい土地に着いたら、荷物の整理もほどほどにちんどん屋に早変わり。チビ…

美浜日記③消えてゆく物語Ⅰ

映画『消えていく物語──デカ・チビ・ノッポの冒険』覚え書き① 老人施設で三人の爺さんたち、デカとチビとノッポが出会う。 デカは温厚なのんびり型。チビは頭も体もチョロチョロ動いて止まらない。ノッポは駄洒落が得意だと本人は思っている理論派。毎日それ…

美浜日記2

二階の窓からひょっと庭の楓を見ると黄葉しはじめている。一部はすでに紅い。 季節はたしかに前に進んでいる。 何度目かの堂々巡りがまた出発点に戻った(それは、本人にとっては大団円とでも言いたいほどの出来事)気がするので、その報告です。 三木成夫『…

美浜日記1

「黄金の十年」の二年目を、児島襄『平和の失速』から始めたのは(偶々とはいえ)大正解だった。 もともと「大正期が近代史のヘソだ」とガンをつけてはいたが、これまでなかなか手を出せずにいた。 明治43年 大逆事件・韓国併合(1910) 明治44年 辛亥革命(…

今山物語8

福岡は昨日は嵐、今日は菜種梅雨。 博工国語教員たちへメッセージを届けた勢いでこれを書きます。 昨日、録画していたNHK『神の数式』を見た。題名が気に入らなくて、見るかどうか迷っていたけど見て良かった。実に充実した内容でした。 この宇宙をひとつの…

今山物語7

ホーキングの宇宙観にふれたときに思い出したことなんだけど、この話は書いたことがあったかなぁ。 同じ頃、「原始人類」にも興味を持っていた。 南アフリカ出身で、若い頃の恩人だったヴァン・デル・ポストのどこまでが現実かわからないようなアフリカの話…

今山物語6

やっと越知彦四郎の碑を見つけた。 田中健之『靖国に祀られざる人々』のなかに、玄洋社が東公園に建てた福岡の変の供養塔は現在、平尾霊園に移されているとあったので、ひょっとしたらと行ってみた。駅から歩くこと一時間半。谷間の霊園の一画にその「特別区…

今山物語5

あらためまして明けましておめでとうございます。 ことしもさっそく郵便爆弾です。 例年通り、開くもよし、屑籠にポイもよし。よしなにお取り扱いください。 年末に、NPO「ホップ・ステップ・ハッピー」から、自分のニックネームをつくれと言ってきたので、…

今山物語4

初参加の同級生クリスマス会(会費千円)は楽しかった。 ワイワイやっている内に、訃報が載っていた葉室麟の話から村上春樹やカズオ・イシグロに話題が移って「読んだことないけど、どうなん?」とふられた。「うん、どっちも読んでみたけど、?オレは読まん…

池田紘一先生へ

何から書いたら良いのでしょう。 注文していた『赤の書・テキスト版』が届きました。 でも、それを開いたら、いよいよ書けなくなりそうですので、その前にお手紙を差し上げます。内容はバラバラになります。ご容赦ください。 先生のお話を聞きながらハンナ・…

今山物語3

南原講演の栩木先生による要約を(ざっくりとだけど)読んだ。 読んでいて、めったやたらに気が重たくなった。 若いころなら、きっと昂揚感に満たされたに違いない。でも、いまは、ひたすら重苦しくなる。 南原繁もまた(当然のごとく)進歩主義者だったんだ…

ことば補遺

こ と ば ──W・オーデン── ○大人と子どものちがいは一つしかない。子どもは自分が誰かを知らない。大人は自分が誰かを知ってしまった人間だ。 自分の悩みごとを人に打ち明けても、それが軽くなるわけではないと悟ったとき、人ははじめて子どもであることを…

今山物語2

徳富蘇峰「近世日本国民史」西南の役篇が終わった。 わずか七冊の文庫本を(途中であれこれ寄り道はしたものの)三ヶ月ほどかけて読んだことになる。もちろん著者は昭和19年から7年以上かけて執筆した(途中、占領軍の検閲によって公に出来なかった期間があ…

とび

ドシンという大きな音がしたので階下に降りた。 ガラス戸の向こうに鳶らしき小さな物体を見つけた。 戸を開けようとすると、 「行ったらいかん!母親が近くにおる。」 失神しているだけかもしれないと見守っていたが、いつまでたっても動かないので、玄関か…

今山物語

主人公リードはリッパー・ストリートでもとの部下の下に入って働くことになる。 ロンドンに同道した娘は貧民街でボランティアを始めるが、ある廃墟に入ったとたんに悲鳴をあげる。心配してついて行っていたリードが飛び込んでいくと、息を引き取りかけている…

不染鉄二

不染鉄二の絵をもし野見山暁治さんが見たら、「素人の絵だ」で片付けてしまうかも知れない。でも、印刷物では残念ながら分からないけれど、彼の山や島や岩には、いまにも動き出しそうな不気味な生命感がみなぎっている。それを確かめたくて奈良県立美術館に…

飯塚のことば

「懐かしい言葉」あいうえお順名詞篇 あんぽんたん=かぼちゃ頭≒ピーマン。 インキョ=ビー玉で行っていたゲームの一つ。ルールは「ゲ ートボール」にそっくり。(たぶん説明の時間順が逆) 大阪じゃんけん=負けたが勝ち カツカツ≒ちょきりちょん≒ぎりぎり …

清宮質文

長くなりそうだから、活字にします。 先週でかけた鈍行列車乗り継ぎの旅の報告です。 いろいろあって、朝9時に博多駅を出た初日は、播州赤穂の東横インで荷物を下ろしたのが夜8時を過ぎていた。その間なんど乗り換えたのか。博多⇒小倉⇒下関⇒岩国⇒白市⇒福山…

木履(ぽくり)

木履(ぽくり) 八七歳の恩師を囲んだクラス会は参加者は十人だったけど盛況だった。 企画してくれたCちゃん、割り勘要員という名目で加わってくれたO、I、それに、わずかな酒で大声を張り上げる半端爺々の面倒を文句も言わずにして下さったお店の方々、そ…

FSへ

ジンから「お前の書いてくることは良う分からん。だいいち字が読めん」と言われてしまったので、タイピングします。 あなたがどんな生き方をしてきたのか聞きたかったのに、うまくマングリが合わなくて残念でした。 相当に躊躇して居たのですが、同期会に行…