美浜日記③消えてゆく物語Ⅰ

映画『消えていく物語──デカ・チビ・ノッポの冒険』覚え書き①


 老人施設で三人の爺さんたち、デカとチビとノッポが出会う。
 デカは温厚なのんびり型。チビは頭も体もチョロチョロ動いて止まらない。ノッポは駄洒落が得意だと本人は思っている理論派。毎日それぞれの色んなとっておきの話を披露し合っている。(それがどんな話かはいずれまた。きっとエッチな話だらけなんだと思う。)
 そのうちに「も一度行ってみたい所」を披露し合う。
──いいねぇ。
──行って見たいねぇ。
──行って見ようか?
 施設には、「この世にこんなに美しくて優しい人がいるのか?」と(チビは)、現実の存在とは思えない介護士さんがいる。とくにチビはその「マドンナ」にぞっこんで、マドンナのいる日ははしゃぎまわって、まとわりついて、マドンナは仕事にならず、周りからの顰蹙を一身に集める。
──おい、気持ちは分かるけど、少しは落ち着け。お前ここに居られなくなるぞ。
──オレたちは最後まで一心同体じゃち約束したのに、オレを追い出す気か?
──そうじゃないけど、ここを出たら、どうやって生きて行かれる?
──生きられる!いままでも生きてきた。これからも生きていく!
──気合いだけやもんなぁ、お前は。
 ある日、とうとうマドンナがの我慢が限界を超えて、涙を浮かべながらチビを怒る。
──チビさん!あなたは他のひとといっしょにここで暮らしたいと本当に思っているの?
 自分のことだけじゃなく、他の人のことも考えようとは思わないの?わたし、チビさんが好きよ。大好きよ。でも、このままではあなたのお世話が出来なくなる!
 チビはしょげ込む。
 その夜、デカとノッポに告げる。
──これ以上あの人に迷惑をかけられん。それは分かっとる。ばってん、あの人を見たら心が踊りだして、口も体も止まらんようになる。オレ、ここを出て行く。
──ここを出て、どこに行くんか?
──前に、「も一度行ってみたい所」を言い合うたろう?そこに本当にも一度行って見る。
──行こう!
──行こう!
──お前たちも出て行くんか?カネはないから食べ物を恵んでもらいながら野宿して行く とぞ。
──行こう。オレたちは友だちやろもん。
──そうだ。同行三人。三人寄れば文殊の知恵。なんとかなるさ。
 その夜、爺さんたちは、マドンナが休憩しているはずの仮眠室のドア前に正座する。
(申し訳ありません。また迷惑をかけます。オレたちは出て行きます。でも、アナタのことは決して忘れません。有り難うございました。)
 ウトウトしていたマドンナは不思議な夢を見て目を覚ます。でも、動こうとはしない。
 三人はそおっと裏口から施設をしのび出る。所持金はゼロなのにウキウキして出て行く。
──やったぁ。オレたちは自由だぁ!
──自由だぁ!
──自由より尊いモノはない!
 ひとりの心優しい介護士が三人を窓から黙って見送っていることにも気づかずに。
 (楽しそうで良かったわね。なにも怒ってなんかいないのよ。いつでも帰っていらっしゃい。)



映画『消えていく物語──デカ・チビ・ノッポの冒険』覚え書き②

 たどり着いた所は小さな田舎町。ちょうど祭があっているらしく、どの家にも提灯の明かりがあり、人々は浴衣姿に着飾って夜店のあいだをそぞろ歩きしている。
 そこにちんどん屋が現れる。演奏している曲は『天然の美』
 そのちんどん屋のなかに「ウソやろ?」と(チビは)感じる美少女がいて、演奏はせずに小さな手振りで踊っている。(だれに演らせるかは、これから考えるが、吉永小百合だけはオミット。)男たちはみな酔ったようになってちんどん屋の後ろについていく。その先の丘の上に三角の大きなテントが張られている。
──あそこは昔、公会堂があったとこ。神武天皇が来らっしゃった時、総出でもたなしたとげな。もてなしすぎて飯がいっぱい余った。仕方がないのでその飯を積み上げたら塚になった。それがこの町の成り立ちたい。あの丘がこの町のシンボル。

 テント小屋に入るとピエロが長い竹の串に丸いあめ玉がついたものを無料で配っている。ただし、「ちょうだい!」と両手を差し出した人にしかあげない。子どもたちは遠慮なく「ちょうだい!」。遠慮している大人たちの後ろから三人が「ちょうだい!」まわりの大人たちも勇気を出して「ちょうだい!」
 三人はあめ玉をくわえて串を両手でクルクル回して愉しむ。

 あちこちで曲芸が披露されている。
 芸人たちのなかには紅毛碧眼も褐色の肌も混じって、さながら万博のよう。
 「ウォーッ!」
 曲芸が行われるたびにテントのなかに歓声が響き渡る。
 大きな鉄条網の球のなかでハーレーダビッドソンがぐるぐる回りをする。下からスロットルをいっぱいにすると、大音響が起こり単車の男は真っ逆さまになって円球を駆け巡る。
 「ウォーッ!」
 真っ白い肌をした豊満な女が肌もあらわな格好で怪しげな軽業を披露する。軽業をするたびにチビは飛び上がって観衆の後ろからユサユサ揺れる胸を見ようとする。
 生真面目な軽業師の父子もいる。寝転がった父親の足の裏を基点に空中回転をしてまた足の裏に着地しようとするがなかなかうまくいかないし、誰も見ていない。いや、その金髪の青年をじいっと見つめている女がひとりだけ居る。その目はもううっとりとなっている。
 テントの天井に張られている綱の先端にスカート姿の金髪の美少女が立つ。
──あれ、ちんどん屋の女の子やろもん。
──そうやが。あの女の子は金髪やったとか!
──黒髪の鬘をかぶっていたんだな。
 金髪の美少女はソロリソロリ綱を渡りはじめる。
 男たちはいっせいに少女の真下に集まって口をあんぐりとさせて真上を見上げる。
──あ!
──あ!
──ああ!
 バランスを失った美少女は綱から真っ逆さまに落ちる。と思ったらそこにトランポリンがあって、少女はポーンポーンと跳ねて観衆に手をふり愛嬌を振りまく。そのとき手を振りすぎて片方の可愛らしい乳房がポロッと出る。
「ウォーッ!」
 デカが手を合わせて拝んでいるのに気づいて、ノッポも慌てて手を擦り合わせる。チビはあんぐりと開いた口を閉じるのを忘れたまま。
──あそこは、金髪じゃないごたったな。
──うーん、よう見えんやった。
──所変われば色変わる。
──しばらくここに厄介になろうか。
──いいねぇ。そうしょお。美少女もおるし。
──うん。サーカス爺さんになろう。