ことば

こ と ば

白川静
・神話をもち、祭政的政治をしていた殷を倒した周は神話をもっていなかった。だから天命を持ち出す以外に王権の根拠を示すことができなかった。
・万葉の最終巻は、大伴家持の日記のようなものが大伴家に残されていた。(それをもとに作られている)。大伴家がなにかの疑獄事件で被疑者になって、家宅捜索されたとき時にそれが見つかった。
 もし、それがなかったら、「万葉集」は伝わらなかったかもしれない。そういう私的な性格のものであった。
・呪の思想 苗族→宗
・殷人が日本人と似ているように、南人も日本人と似ている。日本人を介して、殷と南がつながっていると想像することは楽しい。
・克己復礼=仁(仁とはその礼を己を投げ出してまで実践しつづけること←学び)=媒介者=徹すること=述べて作らず=原始から受け継いできた遺伝子が蠢きはじめる。

中沢新一
・農業も漁業も狩猟でも、その予測不能性こそが人間の労働を動機づけている。


内田樹
・ことばを共有し、物語を共作すること。それが人間の人間性の根本条件です。

ユング
ユダヤ的無もギリシャ的無もイスラム的無も仏教的無も老荘的無も、すべて自己顕現的志向性をもっている。(「ヨブへの答え」)
ニーチェも世界大戦も同様に、19世紀に対する一つの解答であったが、しかしそのいずれも前に向かういかなるプログラムも提出しなかった。
・19世紀にしても、それは単なるローカル的一過性の現象であり、人間の古くからの心に比較的に薄い砂の層を沈めたにすぎない。――文化的現象としてのフロイト――
メルロ=ポンティ
・世界は一箇の神話である。
板垣正夫
・美は君臨するのに存在する必要さえない唯一の存在である。
ホワイトヘッド
・「自然の法則」などは存在しない。ただ自然についての暫定的な習慣があるだけだ。
・もし何人かの詩人たちが現代に生きていたとしたら、彼らは詩人にはならず、科学者になっていただろう。たとえばシェリー。
石田波郷()
・叙情詩から、文学からの袂別の決意表明をすることが俳句にあっては何より必要だった。「俳句は文学である必要はない」
堀田善衛
・俳句は挨拶だ。→西行に直結した唯一の歌人吉井勇
・il y a cadavre entre eux.

原田光
・目的をもってはじめても、どこかで目的を通り過ぎ、往々にして変な所へさまよって出て、今の自分からどんどん遠ざかってゆくような旅。 

クリス
・それを誰かと分かち合うとき、幸福は実現される。

──W・オーデン──
○大人と子どものちがいは一つしかない。子どもは自分が誰かを知らない。大人は自分が誰かを知ってしまった人間だ。
 自分の悩みごとを人に打ち明けても、それが軽くなるわけではないと悟ったとき、人ははじめて子どもであることをやめるのだ。
 自分の存在なんて無用のものだということを喜びたまえ。そして、しかも悶々と歩きたまえ。そうして、自分が誰であるかを思い出したまえ。 
                         
──コンラッド・エイキン──
○心のなかにはいりこんできて、やがて一個のちいさな固いひんやりとした種子になってゆくような一個の物語を人は抱いて生きている。
──ハックスリー──
○われわれが手に出来る最良のものはナッシングなのだということを私は残念に思わない。なぜなら、人生は生きるに価するものだということは、何によっても証明できない信念だからだ。
 どんなことよりも大切なのは一人の人生だ。一人の人生とは、自分の家にいて鼻などをいじりながら、日の沈んでゆくのを見ている、そういうものだろうね。                           
─ソートンワイルダー──
○文学は遺産相続争いではなく、聖火リレーに似ている。
○人生にもっと自由に、もっと深く参加したい。
──デイモン・ラニアン『野郎どもと女たち』──
○公園には鳥がたくさんいて、ぼろを着た老人が手にわずかばかりのポップコーンの袋を握っていた。「デイモン、あの老人はただ孤独なだけだと思うか? あの老人が誰か知っているか? オレた ちさ。オレたちはあの老人なんだ。」  
──グレアム・スウィフト『ウォーター・ランド』──
○強そうな相手と立ち向かわなくてはならなくなった時は、「こいつだって赤ん坊の時はママのおっぱいにむしゃぶりついていたんだ。」と思え。
──レヴィナス──           
○私は幸福な人間だと思われてきた。しかし、幸福の経験と、幸福の記憶から、わたしは幸福なしでも生きられる術(すべ)を学び知ったのだ。
──エウリピデス──
○みのり豊かな穂のごとき人生は刈りとられ、そうでないものは取り残される。
                        
── 山口 薫 ──
○世界は美しい無だと思う。          
──長谷川潾二郎──
○現実は精巧につくられた夢だ。
洲之内徹氏が私の画を「この世のものとは趣さえある」と言うとき、私の気持ちを他の方向から感知していると思う。
 私の考えでは、「この世のものとは思われない」のは目前の現実で目前にある現実が、「この世のものとは思われない」ような美に輝いている事実です。
○よい絵は絶えずよい匂いを周囲に発散する。 
──ジョルジョ・モランディ──
○わたしたちが実際に見ているもの以上に、もっと抽象的でもっと非現実的なものは何もない、とわたしは信じています。
○コップはコップ、木は木であるということしか、わたしたちは知ることはできないのです。
──?──                      
○全人類はひとつの夢しか見ていないのではないか。それが個々人のフィルターを通したとき、違う見え方をしているのだ。
──ヘラクレートス──
○地の死は水になることにあり、水の死は空気になることにあり、空気の死は火になることにあり、そしてまた、その逆も。   
──ベネディクト・アンダーソン──
○ We may note the courege have come from memory--the way of one's origin.
One grows up by growing back
人はおのれを遡ることによって成長する
人は成長し直すことによって成長する
──ヴァルター・ホリチア ──                   
○科学研究はリアリスティックな言語で行われる。科学者はすべての人に受け入れられる結果を得ようとしているのであって、もし滅菌した言語と厳密な論理だけを採用していたら、科学者はどこへもたどりつけなかったはずだ。
                        
──レオン・ブランシュヴィック──
○もっとも宏大な理念でさえ、それを実践に移すためには、偏狭さと排外主義の力を借りるほかない。
──レヴィナス──                   
○「歴史的理性」は、あとになってから(絶対的なものを)照らし出すのである。遅れてやってくる明証性、それがおそらくは弁償法の定義なのだ。
──ブランショ──
○存在すること、それは語ることに等しい。ただし、いかなる対話相手も不在であるところで語ることである。
○始まりのかわりに、原初の空虚のごときもの、物語が開始することを促すような力感にあふれた拒否がある。
   
──マーカス・リィ・ハンセン──
○二世が忘れたいと思ったことを、三世は思い出したいと思う。
──『ジョルジュ・ペロスの方へ』堀江 敏幸──
○書くという行為にはさまざまな誤解がまとわりついている。あまりにも多くの人が、書くことには才能が必要だと思いこんでいる。しかし、それは全く違うと、ペロスはこれからも繰り返すだろう。書くことは「奇妙な隷属状態に反する」ことであり、問題は才能の有無とは別に、つねに螺旋を描いて、中心がぽっかりと空いていることころに身を置きつづける勇気があるかどうかなのだ。
──保田 與重郎──              
○内容や意味をなくすることは、雲雨の情を語るための歌文の世界の道である。
                        
──マラルメブランショ?── 
○詩=ロゴスのなかに整序されたものを(もいちど)散乱させること
──エリー・フォール──
セム人は去勢されなければならなかった
──福岡伸一──
○生命には部品がない
──ボンヘッファー──
○神の前で、神と共に、われわれは神なしに生きる。

──05年7月ロンドン同時多発テロ直後ロンドン市長ケン・リビングストン──斎藤環
○君たちは恐れている。ずっと目指してきた、われわれの自由な社会を破壊するという目標がかなわないかもしれないということを。なぜ君たちが失敗するか。それは、こういうことだ。・・・
 君たちの卑怯な攻撃があった後でさえ、地方から、世界から、人びとはロンドンにやってくるだろう。・・・
 自由になるために、自分の選んだ人生を生きるために。自分自身になるために。・・・
 誰もロンドンを目指す人びとの流れを止めることはできない。ここでは自由が保証され、人びとが調和とそもに生きられる。君たちが何をしようと、どれほど人を殺そうと、君たちは敗北するだろう。


ジャコメッティの日記より──矢内原伊作訳──
○私は今、12歳だった頃とほぼ同じ地点にいるように思う。ただあの頃はすべてが容易に思われていたが、今はすべてが困難に、ほとんど不可能に思われる。
○真実がときとして幽霊のように姿をあらわす。私はもう少しでつかまえられそうだと思う。それからまた私はそれを見失ってしまう。だから私は再びはじめなければならない
○こころみる。それがすべてだ。
○けさは七時まで記憶で仕事をした。そして幾つかのことを発見した。昨日まではまったく違っていた。今日こそ真実に近づくことができるだろう。
○今日はずいぶん進歩した。しかし、まだ全部が嘘だ。見えている顔はこんなものではない。明日こそは少しは正しく描くことができるだろう。早く朝になればよい!!
○私は一脚の椅子のデッサンだけで一生を過ごせることを知っている。
                    ──ジャコメッティー──


タチアナ・ソコロワ・デリューシナ(ロシア語『源氏物語』を一人で全訳)
・人によって創造されたものはすべて、世界に向けられた、ある種の呼びかけだ。
・物語が生まれるのは、人が自分のまわりで怒るすべての事をじょっと観察し、、、自分の胸ひとつには納められそうにないと分かる時、、、自分が観察したものを後世の人と分け合いたいという欲求が生まれる時なのだ。 ──紫式部について──
・人は過去と未来の結び目にすぎない。
この世のすべては言い尽くされている。しかし、限りなく捕らえ難く、言い古されない新たなニュアンス、新たな意味合い、それが「もののあわれ」なのだ。古今集ひとつをとっても、どの歌もすでに言い古されたものだけれど、どれも言い尽くされていないものに限りなく近い。
・「もののあわれ」は、ものごとを境目で捕らえようとすることだ。
・芸術とは「何を」ではなく、「いかに」なのだ。               ・人生は下書きなしの清書だ。
紫式部が生きたのは遠い昔のはるかな日本だけれど、今、私は、昔、彼女が眺めたのと同じ月を眺め、彼女が書いた作品を読んでいる。──これって、永遠に触っていることなのではないか。
・1980,6,17。今日、サーシャと鬼ごっこをした。隠れるなり彼は「ここだよ。ここだよ。」と大声をあげはじめる。
・私たちは、中身をけちったロール・キャベツみたいに、みすぼらしく、背中を丸めて歩いていた。
・雪ダルマは、春の遊び。
   
──フェート──

○古(いにしえ)の歌の調べが幾世紀もの層ををくぐり抜けて、、、、不意に傾ける支度のできた耳に飛びこんでくる。
──ナボコフ──
○人生は一瞬、自分自身をほかのすべての人たちの中に、溶かし込んだだけ。
                       
──ピカソ──
○科学者は全生涯をもって角砂糖ひとつの性質を解明しようとする。私が人生で知りたいことはただひとつ。色とは何かだ。    
──ヴァン・デル・ポスト──
○人間は、自分が知っていると思っている以上のことを知っている。
──中野重治『五勺の酒』──
○少年らが、古い権威を鼻であしらうことだけを覚え、彼ら自身は権威となるところへは絶対出てこぬというあの悪い癖こそ頽廃なのだ。
                    
──榊原英資──
○教育とは孤独になることを教えるプロセスのはずだが、日本はそれをしない。
○デギュレーションとは、まだ残っている何かを壊してゆくプロセスである。アメリカをはじめとして、インドネシアも韓国も伝統的にあったものをデギュレーションの過程で次々に壊した。そのあとにあるものは「マーケット」である。
                         
──白州正子──
○か弱く、はかないものには、それなりの辛抱強さと、物事に耐える力を神さまは授けてくださる。思想とか理念とか呼ばれているものを、それとはほど遠い曖昧な日本語を用いて、たどたどしい文章で書くことを私は少しも恥じてはいない。
                         
──?──
○われわれは永遠に、「自分からの脱出」と「自分への脱出」を同時に行いながら生きている。                    
○人間は自分自身のつくるものだけしか理解できない。 
○文明は収斂を目指し、文化は差別化を目指す。
○鉄は熱いうちに打て、打つときは鉄よりも強く打て。

○上の連中のしていることに口出ししても仕方がないという態度は、たとえば北朝鮮の人々とどこが違うのか。

○ものにさわれ、ことにさわれ、社会にさわれ、少なくとも幼いとき私たちは「愛」にさわっていたはずだ。

──アーネスト・ヘミングウェイ──
○Each taime is new time
─ピーター・ゲード(デンマークのバドミントン元世界チャンピオン)─
○バドミントンに必要な要素には、体力的な面と、技術的な面と、精神的な面と、戦略的・戦術的な面とがある。だから僕はまだ強くなれると思っている。・・・調子が悪いときに、急に調子を取り戻す方法なんてない。調子が悪くてもくじけない芯の強さのようなものが必要なんだ。大切なのは、その調子の悪い自分を受け容れられるかどうかだと思う。だから僕は、調子が悪いときも嫌いじゃない。
  
──ゲーテファウスト』前田利鎌訳──
○存在は義務だ。たとえそれが刹那であったとしても。
           
──孔子──
○告朔のキ(食気)羊は変ずべからず

──1950、12東京サンソム──
○今日日本の直面する問題は過去を振り返ってみても解決できない。日本は変化したが、まわりの世界も変わった。日本は現在あるがままの世界と関係しなければならない。日本の過去の経験は直接には役にたたない。
過去において最も偉大な政治上、経済上の進歩は漸進的かつ非計量的であり、厳密な意味で予見されないものだった。
慎重な歴史家は現在を規準にして過去を記述することを避けなければならない。
日本の政治体制が危急の場合に国民の利益に奉仕しえなかったのは、19世紀に適当な政治形態を採用しなかったからというよりも、その後の時期に状況判断を誤ったことによる。
政治の形式というものは、それを動かす精神に比べてはるかに重要ではない。
政治家の行動は一定不変の政治的原則を遂行する、あるいは新しい原則を提起するのではなくて、当面の目的を果たすためのものである。
               
──2013、10山折哲雄──
○谷川(健一)さんの一生をひそかにうかがうとき、氏は万葉の窓を通して日本人の始原を追い求めるとともに、他方で沖縄・琉球へと突き動かされる眼差しを通して親鸞的人生葛藤の海に泳ぎ出ようとして最後の姿が、あらためて見えてくるような気がする。
──小林秀雄──                    
○あらゆる思想は文体にすぎず、思想家の表情にすぎない。
──江藤淳──                    
漱石から志賀直哉に屈折していった日本の近代小説が、ふたたび屈折して小林秀雄において「批評」を生むにいたる過程の意味である。『Xへの手紙』の背後には明らかに『暗夜行路』があるが、その向こうにはおそらく『明暗』があぅ。漱石が発見した「他者」を、志賀直哉は抹殺しさることによって『暗夜行路』を書いた。そこには絶対化された「自己」があるだけである。小林秀雄はこの「自己」を検証するところからはじめた。

──パウル・クレー──バウハウス               

○生成するいっさいのものの運動は特有のものだ。世界は存在するまえに生成し、未来に存在する以前に生成する。われわれは決してオートメーション工場などではない。

○いかにして静止した状態の、また堅牢堅固な作品であっても、実体は運動である。

○銃身から発射される弾丸の生み出す螺旋的直線軌道の長さは、理念そのもの、思想いそのものに共通している。

○人間が肉体的には無力であるのと対照的に、精神的には、地上的な世界ならびに天上の世界を思うままに踏破する、人間のこの能力。半ば囚われ人にして、半ば翼を与えられた人。これこそが人間の根源的な悲劇性である。

○誰ひとりとしてコロンブスの魚を発見しはしなかった。

○赤とは何ではないのか? 赤はどこでその働きを止めるのか?

○単純化のいきつくところは、不条理な帰結、極限の貧困、生の喪失にいたる。

──堀田善衛──                    
○まったく違う領域へ問題を移し、対比して考える、といって思考法は、実はユダヤ人にとって手慣れた方法だ。
──舟越 桂──      
○すべての人がはじめての存在なんだ。
──ヨーゼフ──  
○女たちは、この世を更新するためにつかわされている。
                    
──ブランショ──
○ひとはいつも捉えられる。いつもいきなり捉えられる。なにものもシステムの明証性から逃れることはできない。
○流浪とは定住を目指す移動のことではない。それは大地との還元不能な関係の仕方である。それは場所なき滞留だ。芸術がそこへと指し招く暗がりを前にしたとき、・・・「自我」は通底の地、匿名の「ひと」のうちに解消する。
                    
──レヴィナス──
○真理が彷徨の条件であり、彷徨が真理の条件である。・・これは同じことを前後入れ替えて言っているだけだろうか?われわれはそうは考えない。
ブランショにとって文学とは、流浪性という人間の本質を呼び覚ますものなのだ。
レイチェル・カーソン
○わたしの文章に詩があるのではなく、海に詩があるのです。
                    
チャトウィン
 「けっして芸術的であろうとしてはいけない」
岩窟の聖母 
 エル・グレコ 聖ヴェロニカの聖顔
 世界で尤も麗しくもの悲しい邸宅のひとつ、ヴィッラ・マルコンテンタ(ブレンダ運河沿い)
 カワード「私生活 焼けぼっくいに火がついて」
ワイス・バーグ
 わたしに理論はない。あるのはただ事実だけだ。
ド・ゴール
 ヨーロッパ市場に参入したら、イギリスはだめになってしまう。そしてだめになってしまったイギリスが共同市場の一角を担うことに、わrわれ大陸諸国はなんの魅力も感じない。
チャトウィン 
 ・ブラックの釣り船のつながれた海岸風景。・・・禅画のように徹底した引き算の構図。
 ・ユンガーの日記のつづく一節は、戦争文学のなかでも醜悪さを争う描写である。モネの初期の画風で銃殺隊を描いたらこうなるだろうか。
・ラヴェンシュタイン司令官が言った。
 「いつか、私の娘がすべての償いをする日がくる。淫売屋で、黒人相手に」
 ・ヒトラーの非凡さは、20世紀がカルトの時代だと気づいたことにある。

コンラッド・エイキン(1889-1973)アメリカの詩人
・心のなかにはいりこんできて、やがて一個のちいさな固いひんやりとした種子になってゆくような一個の物語を人は抱いて生きている。