2020-01-01から1年間の記事一覧

白き瓶

明治三十七年 伊藤左千夫 「小生は常に新聞などで、児を捨てて召集に応じた、妻を離別して奮起したなどといふ、報道を見る度に、甚だ不快に感ずるので、そんなことは皆虚説であると思ひ居り候、真に死を覚悟しての首途に,親と別れ妻子と別れこれを最後の見…

久保猪之吉と長塚節

久保猪之吉と長塚節 のぞみ多き春よことしの此のゑまひとこしへに消えずあれとのみ 久保猪之吉 久保猪之吉の父は福島二本松藩士。猪之吉(1874~1939)は、東京帝国大学卒業後イタリアに留学し、帰国後京都帝国大学福岡医科大(現九大医学部)教授。たまたま…

工藤正廣

GESCHICHTE(ゲシフテ) 去年ウナムーノをかじったとき最初に自分で作った西文は「La(ラ) vida(ヴィーダ) es(エ) la(ラ) literatura(リタラトゥーラ)」だった。「人生は文学だ。」 そのときむりやりに読んでいるものにピッタリだと思った。かじっただけだけど…

後藤利雄

後藤利雄(山形大学。専門は万葉集。)「邪馬台国と秦王国」 ○倭 また騰黄神獣有り、その色は黄、状は狐のごとく、背上に両角竜翼有り、・・・日本国に出づ、寿三千歳、黄帝得てこれに乗り、遂に六合(くに)を周旋す。・・・―― 『雲笈七籤』巻一百「軒轅本紀…

美浜日記2020/07/04

こちらに「なし」という言葉がある。 東京弁でいうなら「なぜ」。 ただし、「なぜ」とちがってじつに頻繁に使われた。 大人の言うことに「?」を感じた子どもは即座に(相手が親でも先生でも)「なし?」語尾は上がらない。だから小学校の先生はつねに「なし…

美浜日記 國分功一郎

國分功一郎 『中動態の世界』を読み終えて、言葉が出なくなった事情を少しだけ書きます。 「自由を追求することは自由意志を認めることではない。中動態を論ずるなかでわれわれは何度も自由意志あるいは意志の存在について否定的な見解を述べてきた。もしか…

五つの物語

五つの物語 <1> あると 体がすっと持ち上げられた。 これまで経験したことのない高さになったが、ちっとも怖くなかった。 あたかい胸に抱かれて喜びでいっぱいになったとき、 彼女は母親のことも兄弟のことも、すべて忘れていた。 少年は子犬をあるとと名…

今山物語 文学史

高校一年生のための 一気読み日本文学史 福岡編 <一> 最初に、文学とはなにか、の話をしておきたい。 文学は、物語や戯曲(ぎきよく)(お芝居の台本)や随筆や詩や歌だけを指すのではない。人々の心に残る言葉の総体を文学と呼ぶ。 たとえばフランスには、亡…

今西錦司『生物の世界』

今西錦司『生物の世界』 ※「生体と物体」とか「空間と時間」のような二項分立では、この世界を語ることはできない、ことの 説明の部分。 「空間的即時間的であるということがこの世界の構成原理である以上、その存在が構造的即機能的でなければならないのは…

浅野俊哉

スピノザ<触発の思考> 浅野俊哉序 スピノザの思考の根幹にあるのは、たとえば「無媒介性」(あるいは弁証法/目的論の拒否)、「外部なき思考」(あるいは内在性)、「力」(あるいは力能/能力)、そして「触発」(変様)といった概念――これらはどれも一…