「お嫁さんにしたい人」にまた会えた

GFへ

 昨日はひさしぶりにペラペラとよくしゃべった。たまたま迷い込んだ車が通れない路地のそば屋は大発見だった。――もう一度行けるかどうかは怪しいけど――今宿まで帰り着くと、首や肩が軽くなっているのに気づいた。たぶん機嫌もよかったのだろう、家の絶滅危惧種が「よかったね」と言う。
 家にもどって、気になっていたテレビをつけると、ちょうど、卓球の日韓戦が始まった。今回は勝てるかもしれない、という予感があっった。福原愛が本物になりつつある。「上手」とか、「速い」とかではなく、「強い」。ほんとうに強い選手にはバケモノじみたイメージがある。福原はその領域に近づいている。それに、前回は中学生ながら、「感性」というものを目で見ている気になった石川カスミも17歳になって、世界的な選手になってゆく気配がある。で、もと卓球部顧問としては楽しみにしていたのです。
 すごい試合だった。第一戦から第四戦まですべてフルセット。勝って負けて、勝って負けて、最後のゲームで福原が勝ち、メダルを確定した。・・・・サッカーなんかより(日本のサッカーなんかより)はるかにスリリングで手に汗握る大激闘だった。
 が、いちばん気になっていたのは、前回の日韓戦のとき、福原や平野のまえに立ちはだかり日本をうちのめした、憎らしいほどに強いカット打ちのキム・キョンアが出ているかどうかだった。何せ30はとうに越えている。が、出ていた。そして、実は今回も平野と福原を破った。しかし、彼女以外が勝てず、日本の辛勝。――もし、次回(この大会で個人戦があるならその時)戦ったら、今度は福原が勝つ。確実に世代交代が始まっている。今回の大会の面白さのひとつは、そういうところにもある。すでに、中国の強さに圧倒的なものが感じられなくなっている。
 前回、キョンア選手の強さに舌をまきつつ見ているうちに、「この人をお嫁さんにしたい」と思っている少年が自分のなかにいるのに気づいて唖然となった。美人でもなんでもない。むしろ、実年齢より老けてみえる、一時代前の白黒写真に写っているようなタイプで、ただの白の伝統的なチマチョゴリが似合いそうで、そこらへんを歩いていても、卓球によほど詳しい者でなければ誰も振り向きそうではない女性だ。しかし、ほんのわずかなんだけど、ごくごく控えめなんだけど、他人に見せるためのものではない実に豊かな表情がある。「こんな人と暮らしたら楽しいだろうな」と今年も思った。
 団体戦は負けちゃったけど、もし、このあと個人戦のテレビ放送があったらぜひ見てください。実力者だからきっとベスト8までは勝ち上がると思う。――ひょっとしたら団体戦で気力が尽きて、ベスト16止まり、になるかもしれないけど――今回見とかないと、次回は「もう引退しました」ということになるかもしれないから。
 キム・キョンア。漢字では、金敬蛾、と書くのかな。

追記
 C・フランクについて
 かれの音楽は非情で意味がないのだ、という考えはかわらない。
 ただ、音楽史的にいうと、彼の音楽はロマン主義のごく小さな結晶と考えられているらしい。その評価もまた正当なんだと思う。