白鵬に期待しよう

GFへ
 先週辺りからか、「暑いですね。」が決まり文句になってきた。それはいいのだが、「今年の暑さは特別ですね。」と言われると、そうかなと思ってしまう。日常のあいさつ代わりの会話だけでなく、テレビのニュースキャスターまでがそう言う。――ここ40年くらいの統計を見てから言っているの?――暑いけど、今年が特別の暑さとは感じないし、昔はもっと暑い年があった気がする。この20年だけでも、夜の12時を過ぎてやっと気温が30度を下回った年があった。今年はまだ楽に寝られる。(ちなみに我が家でクーラーの恩恵をいちばん受けているのは、ゴキブリ大明神ことフローレンス・ジュリア・ピッピと、ウンコ大魔王ことジョン・コーネル・ガロの二人です)別に気温のことで目くじらを立てる必要もないが、なんだか世の中全体が、そのときの気分を事実であるかのように思いこんでいる気がしてしかたがない。もちろん、我が家は町外れもいいとこの自然がいっぱいだし、ヒートアイランド現象は加速しているのかも知れないけれど、「温暖化ゲンショウ」だと思いこんだら、なんでもかんでも温暖化するもんだと気分でものを考えてしまう。
 9時すぎに起き出して新聞を開くと、白鵬が全勝優勝した、とある。えらいねぇ。「ほかの連中が弱すぎるから全勝して当たり前だ。」という人もあるだろうけど、全体のレベルが低い中で突出したレベルを維持するには、実は並外れた努力が必要だと思う。たとえば、プロ野球の野茂投手が大リーグに移って大活躍したが、先住民の息子はちょっとしらけた。日本にいたときデブデブになっていた彼がみごとにシェープアップをはたしたからだ。「だったら日本にいるときから一生懸命やってくれ。」だが、それがなかなかできない。「こんなもんか」と思ったら、自分も「そんなもん」になるのが普通なんだ。大鵬双葉山の偉さは、朱に染まっても赤くならなかったことにある。あるいはイチローがチーム内で孤立しているかのように見えたのも同じ理由からかもしれない。(今年は様子がなんだか違う。ひょっとしたら200本安打記録が途絶えるかもしれない)
 相撲協会は、天皇賜杯を辞退すると決めたのだそうだ。なにを馬鹿な。いつから天皇にいただいたものを協会や理事会が私物化しているのか。もし、賜杯を辞退できるものがいるとしたら、それは優勝した者しかいない。第一、大相撲の世界でいちばん偉いのは横綱であって、引退した者たちや外部の人間ではない。大相撲は現役の横綱を頂点としてまわっているのです。それなのに、まるで横綱を使用人ででもあるかのように扱っている。あの人たち自身が大相撲の世界を解体させかかっている。
 いま、大相撲を支えているのは、モンゴルからきた若者だ。これから10年ほど、白鵬に取って代われる者は現れないかもしれない。それほどの偉大な横綱になりうる。我々はそのことを期待しよう。
 それにしても、NHK会長の「実況中継中止」発言には驚いた。1万5千通もの抗議が殺到したのだという。「これは大変なことです。」――どうして大変なの?
 抗議をした1万5千人のうち、毎場所の相撲放送を楽しみにしていた人が何人いたのだろう? 大半はもともと大相撲に関心がない、実況中継があろうとなかろうとどうでもいい人たちではなかったかとにらんでいる。しかもその数は日本の人口の0,02パーセント以下だ。「いや、それは大変な数なのだ」というNHK会長支持派は、今後1万5千人の抗議があればNHKがその番組を放送中止にすることをも支持しなければならない。このインターネット時代に1万5千などという数はなんということもないのだ。自分にとってはどうでもいいことの判断基準と、どうでもよくないことへの判断基準がずれるのを民主主義の自殺という。――そういうことが最近多すぎやしないか――いずれにしても、NHKは将来に深い禍根を残す判断をした。
 
別件
 夏休みにはいって、「赤本の日」をつくることにした。これまでも、自習の時間に使う教材はなんでもいいことにしてきたから、その延長だ。普段から河合の問題集を持ち込んでいる者もいるし、ベネッセの教材を使っている者もいる。解答や解説を読んでも分からなかったり、納得できないときは黙って手を挙げれば出前をする。「どっからでもかかって来い」というわけだ。(この方式は、一定の姿勢が身についた生徒には相当の効果が期待できる。ただし、予想した以上にこっちの脳ミソがへとへとになっていることに後で気づく。だから、生徒にはお勧めだが、教員にはあまり勧められない)
 赤本の種類が合計で何冊になったのかは数えなかったが、けっこういろんな質問があって、それを次々にさばいていると。「オレはひょっとしたらセンセイとちゃうか?」と勘違いしそうになる。面白いといえば実に面白い。
 一昨日、ある生徒が手を挙げて、アイコンタクトをとった。以前、試験前に「これは純粋の贈与です」とあめ玉をくれた生徒だった。小さな声で呼びかけているので、近づいていって、こちらも小さな声で言った。
――先生にむかってジィチャンとは何事か!?
――?・?・・・ティーチャーと言ったんです。