イチローよ来年は2番を打て

GFへ

 プロ野球は一週間のお休み。
 今日は、何やらまた大リーグ記録に並んだというイチローの話をします。
 前にも書いたけど、野球中継を耳で聞いていると、いろいろ面白い話がある。
 大昔、ラジオしか持たなかったころ、東尾と山田が投げ合う日があった。解説者はたしか、山本さん。(この人の解説は面白かった。あの人のお陰で野球を見る目――聞く耳?――が肥えた気がする)
 ――今日の試合は長くなりますよ。
 お互いに、先に一点とられたほうが負けだと、考える。だからフォアボールを出すのを惜しまない、と言うのだ。その通りの長くてしんどい試合になった。たしか、山田が投げ勝ったんじゃなかったかな。

 ダイエーがまだ弱かったころ、試合前に解説者が流れを予想した。――こうなって、ああなって、こうして、こういう展開になったときに、あのピッチャーを使う。王さんが私の予想した通りの選手起用をしたらこの試合は負けます。
 試合はその通りの展開になって、解説者の予想通りにダイエーが負けた。
 広島の笹オカが投げているとき、相手チームのバッティングコーチのコメントがはいってきた。「今日は球も速くないからそのうちに打てる。」
――なにも分かってないなぁ。今日の笹オカは真っ直ぐを全部抜いているんですよ。だからタイミングが合わないんだ。
「プロの考えることはすごい。」

 逆の例もある。
 ヒルマンが日ハムの監督になった当初、ある試合がぼろ負け状態になった。そのときヒルマンは抑えのピッチャーを送り出した。解説者は「なにも判ってないなぁ。このピッチャーは勝ちゲームのときのピッチャーなんですよ。こんな捨てゲームで使ってどうするんですか!」と息巻いた。が、試合はその後、日ハムが大逆転。・・・コイツ、ヤルカモ知レンゾ。
 あるときは、一球目ストライク。二球目もストライク。「ピッチャー追い込みました。」とアナウンサーが言うと、「いや、いまの二球目はボールにするつもりがストライクになっちゃったんです。キャッチャーは困ってますよ。ともかく、三球目は完全なボールを要求するでしょう。」四球目もボール。
――次で勝負ですか?
――いやぁ。
フルカウントになって、
――もう勝負するしか、
――いやぁ。
 結局フォアボールだった。

 八月の終わり頃だったか、大リーグ中継を見ていたら、誰かが次のようなことを言った。
――イチローももう記録はたくさん作ったんだから、来年はチームの勝利を優先的に考えるほうがいいと思う。
 一瞬、間があって、アナウンサーが問い返した。
――それは打順の話ですか?
――そうです。
 あの解説者は誰だったのだろう。
 そのほうがいい。50歳まで現役、もいいけど、今のままだとイチローは張本の跡継ぎになる。安打製造機と言われた張本は、結局その現役時代の実績以外にはなにも誇るべきものがない。第一、引退後はどの球団も指導者として迎えようとしなかった。ヒットは飽きるくらいに打ったけど、別にそれだけのことで、チームを勝たせたという記憶がほとんどない。それが、金田や長島・王、それから野村や落合との大きな違いだ。
 野村を意識したのは、監督一年目の新聞記事だった。前日、父親の墓参りをしたと言うので、「何か報告したか」という質問に、「そりゃ、今いちばん充実しとると報告したさ。」じつはその時、南海ホークスは最下位だった。最下位のチームを率いている者が「今いちばん充実している」と堂々と言う。自分の記憶が間違いなければ、次の年、野村ホークスが優勝した。――ひょっとしたら、わが願いを現実として記憶してしまっているかも知れんが――世代交代をやり遂げたのだ。その後、ヤクルトでも、タイガースでも、楽天でも、彼は充実した時間をすごした。
 イチローのそういう姿を見てみたい。
 来年は2番を自分から希望せよ。そして、自分のもっている能力を最大限に生かしてチームを勝たせてほしい。「こうすれば勝てるんだ。」ということを実践する。それが彼の新しい可能性を開くことになる。

 どうやら、「また、負け戦だった」誰かさんの人生論のようですな。


別件
 ピッピの毛が伸びすぎてきて幽霊みたいになったので散髪をしてやった。――散髪はいつもお父さんの仕事。本職に刈らせたことは一度もない。――今年はうまくいって、ピッピの女っぷりがあがった。それを見た絶滅危惧種いわく、
――あたしの髪もカットしてくれん?
 失敗したときが怖いから辞退した。

別件の別件
 信州の男から「池内淳子死去」のメールが届いた。
――日本酒のような女がまたひとりいなくなった。最近はビール女ばかりだ。
――まずは、貴公が日本酒男になりなされ。