奈良修学旅行報告のつづき


GFへ
 本日、アジア大会卓球ペアで、男女とも銅メダル確定。女子は福原愛石川佳純ペアが「お嫁さんにしたい」キョンア選手ペアを破った。ね、「次回は勝てる」と言ったでしょ? ふたりとも本当に強くなっている。
 びっくりしたのは男子。はじめて見た高校一年生とたぶん3年生くらいの(石川佳純とよく似たタイプの松平××)ペアが、同じく韓国の世界ランキング上位のペアにフルセットで勝った。ふた時代くらい前の日本を思い出す。ちょうどそんな巡り合わせになりつつあるのかもしれない。

 今日は、前回、報告し残したことが幾つかあるので追加します。
 奈良大の上野誠教授は、たぶん一回りほど年下だと見えるんだが、なかなか魅力的な男で、冬休みになったらお礼状を書こうと思っている。専門は万葉集。古代史についてもよく勉強しているし、自分の見方もしっかりしていて、頼もしい。東大だの京大だのではなく、たしか國學院の出身だと聞いた。折口信夫の系統だな。いい生き方をしていると思う。要するに男らしい男だ。いずれ気に入った本を送ります。
 バスで回りながら、「ここら辺が××の根拠地、ここは○○の本拠地」と説明しているとき、ある男が、「天皇はいったいどの種族の出なんですか?」という。「なんとも不敬な質問が出たんですが、」と笑わせたあとで、だいたい次のようなことを言った。
 富や権力は、谷間や川の合流地点に蓄積する。蓄積を果たして強大になった権力は谷間からはみ出して平野部に進出しようとする。その平野部でぶつかり合った権力対権力の調停役が天皇だったのではないか。だから、天皇自身の権力といっても、遷都の権利くらいしか持っていなかった。「つまり権力の空洞化が起こったわけです。その権力の空洞が天皇制を1000数百年も続けさせた秘密だと思います。」
 「富や権力は、谷間や川の合流地点に蓄積する」がいいでしょう?聞いていて、漢の興りを思い出していた。いや周もそうか。たぶん、世界史的な強大な権力も、はじまりはほぼ似たようなことだったのではないかな。
 その質問をしたのは早大出の男で、以前、三輪山に登ったことがあるという。そのときたまたま(という言い方をした)眼下に箸墓古墳が自分たちのほうを向いているのが見えた。「大和の中心地はまさにここなんだと感動しました。」そこからが面白かった。
――でもですねぇ。直観にすぎませんが、そこが邪馬台国であるにしてはあまりにも新しすぎると感じたんです。箸墓を中心とした文化には、何か前史が必要な気がする。・・・直観だけですけどね。
 なかなかいい勘をしてござらっしゃる気がするよ。少なくとも我々にとっての邪馬台国は書かれた古代史以前の存在だ。どうも学者さんたちは、歴史のつじつまを合わせようとしすぎる。たぶん、もし上野先生がこれを読んだら、ニヤつくんじゃないかな。

 私学に勤めている女の子がいた。彼女は秘仏公開にはまっているという。「なんでか?」と訊かれてためらったあと、「あのですね、目が合うんです。場所が狭いでしょ? 距離が近いでしょ? すると自然に目が合うんです。合ったらもう涙ぼろぼろになっちゃうんです。」
・・・・みそなはすとも見えぬさみしさ・・・・の逆パターンなわけだ。そんな女の子がいるんだ、と思うと、やっぱりこの国は女でもっているのかもしれないと感じる。

 河島英吾の奥さんのカフェバーでのこと。福岡高校の男が、「『酒と泪と男と女』は最初はB面だった。A面は『てんびんばかり』だった。」と言い出した。奥さんに訊ねると、「はい。そうでした。」そのA面を高校生のときに聞いてショックを受けたという。記憶にないからCDを注文している。気に入ったらまた年末に持って行って、ラジカセを借りるかな。


別件、かな?
 上野先生は教え子を3〜4人連れてきて、われわれの世話をさせた。この子たちが実によく教育されていて気持ちよかった。わいわいわいわいオイサンやオバサンが移動しているあいだはいつも人数を確認している。何かあると指示にしたがって先回りしたり、連絡をとったりスムースにおこなう。なにせ、前回書いた兄貴分は、修学旅行のとき「○組は全員揃っているか?」と声をかけられたクラス委員が、「はい、うちは担任以外はいつも揃っています。」と答えたという強者で、じっさい大極殿跡ではしばらく迷子になった。だれも携帯の番号を知らなかったけど、ひとり奥さんの番号なら知っているという男が掛けた。「××の○○ですが、奈良から電話しております。」と言うと奥さんが「倒れましたか?」と言ったというから、兄貴分の親分らしい。
 学生たちがやたらと気に入ったので、別れ際に、「君たちはほんとうにいい先生にめぐり会えたね。大学を出たあとも、なにかあったときは、――自分は上野先生の教え子だぞ――と思いなさい。そしたらきっとエネルギーがわいてくるよ。」と言ったら、声を揃えて、「はい!」と返事をした。そのときの嬉しそうな顔が実によかった。奈良大はいい大学ごたるばい。