燃える秋は終わった

GFへ
 明日は休日。そのことがもう分かっているのかどうか、チビたちは二つのソファーをそれぞれ占有して、自分の足をなめている。いちばんリラックスしているときの仕草だ。明日はできれば紅葉真っ盛りという雷山観音に連れていってやろう。
 昨日は45歳初婚の教え子の結婚披露宴。Gや教え子と席をならべて、なんとも愉快な時間だった。その話は年末にとっておきます。
 今日は、「そろそろ、目を開かせられる時だな。」と、現代文の読み方の講義めいたことをやった。実は同じようなことは何度もしているのだが、ほんとうに分かるようになる時期を見計らっていたのです。
 話は、「選択肢は5択でも、文章自体は2択でできている。」という例の話。――直叙と当為、例、比喩の関係を文章の中の具体例で説明していく。あとは、「ショートカットして理解した気になるな。」「怒ったり喜んだりするな。つまり、読書をしたら点数が下がるぞ。」など。
 その中で、比喩の説明をした。
――「燃える秋になった。」どういう秋か?
――紅葉!
――ようし。では、「荒木の燃える秋は終わった。」
――・・・・。
 とんちんかんな答えばかりが出てくる。
――秋は何の季節か?
――抜け毛が増える季節!!
 それじゃ受験勉強になるまい。恋の季節やろ。激しい恋の時期が終わった、ということやろ。
――なんか!! 例に出した名前がいかん!!
 
 明日がリィの命日。そしてもうすぐピッピは8歳。ガロも4歳。病気で心配ばかりかけているが、それでも随分大人になった。
 ことばもかなり覚えた。
 ご飯、おやつ、上、下、(家のなかの1階2階のこと)そっちだめ、こっち、家、なか、外、待て、良し、ダメ、ようし、おしまい、おしっこ、ウンコ、「かわいい」「いい子」はほめことばだと分かっている。(特にピッピは「かわいい」と言われるのが大好きで、散歩の途中で女の子などが「かわいい」と言うと、耳をピッと立てて立ち止まる。)さ行くぞ、帰ろう、だいじょうぶ。(「だいじょうぶ」はピッピ専用。ごく慎重な性格で、散歩の途中で見かけない人影や車が来るとピタッと立ちどまり、こっちを見る。「だいじょうぶ」と言うとまた歩き出す。)おやすみ。「おやすみ」をほんとうに理解しているのか?と思うかもしれないが、お父さんが2階に上がるとき、「お休み、また明日」というと、もう2匹とも諦めてついて来ない。ほんとうだよ。おとうさんの感じでは、「右、左」以外は、大抵の日本語が通じる・・・・。
 そのほかに、「くるま」と「山小屋」は、かれらのいる場所では禁句。自分たちがでかけられるもんだと思って大騒ぎをはじめる。
 ピッピは子どもの頃から意思表示をはっきりしたが、ガロはこちらと目を合わせることさえできなかった。目を合わせようとしたら必死になってきょろきょろ目をそらす。それがいつの間にか声を出すようになり、吠えて催促するようになり、平気で目を合わせるようになり、この頃では、なにか頼み事――おやつか、ご飯か、外か、――があると、一生懸命こちらと目を合わせようとする。お父さんが机について「お仕事」していたりして目を合わせられないときは吠えたりしないで、足か手かいちばん近くにある肌をそっと嘗めて注意をひこうとする。大変な成長だし、それだけお父さんへの信頼感が増したのだろう。
 先日は、下の公園でのんびりしていたとき、ガロの首輪がはずれているのに気づいた。なのに逃げ出さずにそばをウロウロしている。ひょいと捕まえてまた首輪をつけてやればすんだ。
――ガロもえらくなったねぇ。
 ・・・・家に戻って、絶滅危惧種にその話をしたら、
――ほんとね? 首輪がはずれとるのに気づいとらんやっただけじゃないと?

別件
 庄司紗矢香のコンサート会場で買ったCDの封印を切った。せっかく早めにチケットをかったのに、わざわざシンフォニーを聴くときと同じように遠くの席をとったのは大失敗だった。いずれ聴いていただくつもりだからコメントは最低限にするが、――もともと、ワンフレーズ男だけど――「ベートーベンの音楽はこんなにもエロチックだったのか!」 たぶん稀代の演奏だ。カシオーリのCDも探そうと思う。ルバッキーテは異才、カシオーリは天才です。
 庄司紗矢香とカシオーリには、これからも稔りある仕事を期待しよう。