2011年のご挨拶

GFへ
 新年明けましておめでとうございます。
 今年はどんな年になるのかなぁ。実は内心では5度目の青春を期待している。なにしろこの男は欲が深〜いのだ。
 一度目の青春は高校時代。いま思い出しても、よくぞ好き勝手をやらせてくれたとあの先生たちに感謝している。たぶん、思いっきりいい加減な学校だったのだ。あのいい加減さを母校が残しているなら大した学校なのだが。・・・・そして7年間におよぶ大学生活。それでも飽きたらず、さらに2年間学生のつもりで生活しつづけた。・・・さすがにそれで「わが青春は終わった。」というつもりで福岡に帰って来たのだが、Gと出会った学校は第3の青春の場だった。その場所で闘いつづけて、へとへとになって、一年間まるまる失業者になった。それから絶滅危惧種と出会い(永江さん、ありがとう。)今の職場にたどり着いたのは、たしか37歳のとき。まさかそこに第4の青春が待っていようとは思ってもいなかった。(その青春は他の青春と同様に、苦々しさを噛み殺し、恥ずかしさに耐えるために自分不感症だと思いこませる必要があったが)
 12月30日は、3年間もちあがったクラスの同窓会。すさまじいクラスだった。まともに学校に出て来ないのが何人もいた。出てきた奴らは授業中に教室内をウロウロしている。HRをやろうにも自分たちで勝手にしゃべりまくって、こっちを向こうともしない。窮余の一策が『各駅停車』の発行だった。放課後教室を整頓してから(生徒たちはまともに掃除もしない)机の上に学級新聞を置いておくことにした。翌日行ってみると、学級新聞は床に散乱している。それでもめげずに一年間発行しつづけているうちに、教室が静かになり、まともに授業が成立するようになった。オーストラリアへホームステイに行くときは、「引率が1人だけで大丈夫か?」と心配されたが、こっちは自信満々だった。
 きっかけが何だったのかは分からない。ただ、伊勢物語の「筒井筒」を読んでいるとき、一人が「わ、不倫やが。」とつぶやいたとたんに教室中が大騒ぎになった。・・・・「ひょっとしたら、このクラスはうまく行くかもしれない。」と思ったのは覚えている。
 何人いたのかも覚えていなかったら、18名だったのだそうだ。そのうちの10名が集まっていた。そのほか、福岡に居ない者3名。うち一人はヨットの全日本選手権一位。いま合宿の最中だそうだ。「本気でロンドン・オリンピックを狙います。」と数ヶ月ほど前に言いに来た。仕事で動けない者3名。連絡がつかない者2名。
 「オイ、一人ずつ面談ぜ。」25歳で2人の子持ち1名。1人の子持ち1名。今年結婚予定1名。職探しの最中2名。3月に退職して新しい生き方を探すという者1名。社長1名。「よう集まったな。」と言うと、
――ここに集まっとる者は、先生に会っていなかったら卒業していなかった者ばかりやろ?
――そうかな。そうでなかった者もいる気がするけどな。
 あるとき、学校を休んでいたら電話がかかってきた。「どうしているんだ?」と訊かれて「学校に行きたくない。」と返事したら、「そうかあ・・。」と言ってそのまま電話が切れた。
――そうなったら家には居られんやろ!?
 3年になってだいぶたって、授業中にそっと窓が開いた。「お前さ、数字を誤魔化さんと卒業できんようになってしもうた。どうする?」と訊かれた。
――お願いしますち言うしかないやろ!!
 全然おぼえていなかった。しかし、すべてはもう笑い話だ。
 たまたま絶滅危惧種が急に熱を出していたので、先に帰ることにした。いままで通り幹事にお札を渡そうとしたら、
――今日は受け取れません。皆でそう決めています。
 そして、花束贈呈があった。出口まで鞄とコートをもって見送りに来たやつが、
――先生に感謝しています。
 感謝するのはこっちの方だ。
 いい生き方、というものがある。したほうが得をする苦労というものもある。しかし、それらは「運」次第だと思う。その「運」がオレにはあった。ずいぶん曲がりくねった生き方をしたが、その間、なぜか知らないけど、その「運」を疑ったことは一度もなかった。彼らにもその運を与えたかった。うまく与えられたかどうかは分からないが、感心するほど彼らは、いい女、を見つける。ひょっとしたらそれがあのクラスの文化になっているのかも知れない。
 「じゃ、また来年。」かれらが男っぽくなるにつれて、こちらは年ごとに爺むさくなっていく。それでいい。しかし、ひょっとすると、ほんとうに第5の青春が待っているかもしれんぞなもし。

別件
 いつだったか、熱を出して寝込んでいるとき、子どものころ隣にいたイトコたちと出会った。7人とも元気だった。(ほんとうはもう、うえ2人が他界している。)おばちゃんもいた。(亡くなったのはもう20年以上前か)このおばちゃんは、まだ先住民の息子が学生だったころ、ある集まりのときに、「お母さんの横に座んしゃい。横に座るだけで親孝行なんじゃけ。」と言ってくれた人だ。(今日は、老人ホームのリビングにしつらえられていたテーブル・コタツで2人ならんでテレビをみて過ごした。)おばちゃんは座高が50㎝くらいに縮まって、木炭のように小さくなっていたが、「きぬゑさん良かったなぁ。」と言ってくれた。