世の中に両目の目玉焼きというものがあったのか!

GFへ

 映画を思い出しはじめたら、とまらない。
 小学校時代、ときどき映画会があった。その日は暗くなるまで待ってから講堂で映画を見る。娯楽映画もあったが、いわゆる教育映画なるものが当時はあった。
 望月優子の母物はけっこう辛かった。荷車を引いている母親を見かける。友だちがそのオバサンをからかう。主人公は黙ったままで、それが自分の母親だということを隠す。
 むかついた。自分の親を親だと公言できない奴なんか死んじまえ!
 いちばん辛かったのは、友だち達から万引きを強要されて、主人公が駄菓子屋でそれを実行する場面だった。これは見ちゃいられなかったから目をつぶった。でも耳から聞こえてくるから耳をふさいだ。耳をふさいでも聞こえてくるから、指で耳をふさいだり開けたり繰り返すことを思いついた。なんだか、「教育映画」の度にそんなことをしていた気がする。
 これは怖い話ではなかったが、やはり弱い主人公がいじめっこ達から、「やあい、やあい。お前んちの目玉焼きは片目だろ。やあい、やあい。」とやじられて、めそめそ泣き出すというシーンがあった。これにはびっくりした。
――世の中に、両目の目玉焼きというものがあったのか!!

 のちに、それらの教育映画を作っていたのが日活だったことを知った。 つまり、教育映画を作っていたのスタッフはその後、裕次郎吉永小百合の映画をつくり、それも廃れると今度は、ロマンポルノをつくった。「今度はポルノ映画の台本を書け」と言われた人が、やっと自分の書きたい物が書ける、という気になった、という話を読んだことがある。自分の書きたい通りのものを書いて、男女が抱き合ってベッドに倒れこむその後さえ付け加えればよかったというのだ。
 そういえば、「団地妻」シリーズの中に、以下のような場面があった。
 不倫にはまりこんだ宮下順子は男と団地を出ていく。が、男に捨てられてまた団地にもどってくる。ドアを開けると、家の中は鳩の住処になっている。開けっ放しになっているベランダ側から鳩たちがバアッと一斉に飛びだしていって。エンド。

別件
 チビたちを散歩させていたら、クリークのところからカワセミが飛びだしてきて、田んぼの向こうにある中学校の校舎の反対側まで一直線に飛んで見せた。それはほんとうに、久々の先住民の息子に自分を見せてやっているかの様だった。