夜よねむれ

 夜よねむれ
 
思い出はとっくに消えようとしている
喪われるものたちの記憶をひきとめてはいけない
天候の推移にも昼夜の交代にもかかわらず
いつも世界は光りにあふれていたのだから
小さい者たちへの呼びかけにみちて

明日というものをどうして知ってしまったのだろう
すべては今でしかないのに
時というものに自分を託すしかないと賭けに出て以来
うべないつづけた一切のものを
あらかた彼処に遺したままで此処まで来た

氏神や鎮守の杜や箱庭の冬にも
ともすれば生い出でる一本の草が
ぐるりとひと巡りしたあとの僕らの生命の証

論理をひき裂いて理だけにしろ
疑いは光を産もうとあえぐことを知らない
愛することを知っている者たちのみが
忘れ去られるに価する

迷ったまま辿りついた周辺を見回してみると
どうみても此処ははじまりの根元
眠っていたのだ
枢要な事柄はどれもまた此処からはじまり直す
2011/1/15