エーテル(1)

  おやすみ


あの娘は行ってしまったよ
とてもいい娘だったのにね
せめてこっそり見送ろうとターミナルに行ってみたけど
見つけることはできなかった


あの娘のことだからきっと
そこらに転がっている放置自転車にでも乗って
すいすいと隣町へこぎだしたんじゃないかな
身分証明書なんかてんであてにしない所があったからね


いや隣町を目指したりなんかしなかった
あの娘には右とか左とか
前とか後ろとかいう感覚がなかった気がする
でもひょっとしたら上とか下とかはあったかもね
不思議な娘だった


世界は広い
どこまでもつづいている
だからぼくらはその内側にいるっていうのはちょっと違っているんじゃないかな
あの娘がそう教えてくれた


だれもがあの娘を受け入れてるつもりでいて
それなのに
だれもあの娘から受け入れられていた記憶がない
ほんとうに自由な娘だったんだ
喜びとか悲しみとかからも


ぼくはだれにも言わなかったけど
もちろん本人に言おうなんて願いもしなかったけど


ぼくはあの娘が好きだった


これからもぼくは生きていくよ
あんな可愛い娘にまた会えるなんてけっして期待しない


あの娘はだれのものにもならない
どこに行っても
どんな時でも
きっとあの娘は生きている
ひょっとしたら今もぼくを見つめている


さよなら
ぼくの夢
おやすみ
ぼくの祈り


ぼくはあの娘が好きだった

2011/02/21
追記
 「詩もどき3部作」で、何かはき出してすっきりした気分になったら、またもやぽこっと何やらできた。区切りをつけるために、前の三つはまとめて『夜よねむれ』。ここからは『エーテル』と名づける。女の子の名前のつもりです。

別件
 退職金のことで相談している保険会社の女の子いわく、「芸術って、神様にいちばん近い学問だそうです。」
 どこでそんなことを習ったのか今度きいてみる。