渡辺順三『烈風の街』
2011/09/01
ひょうひょうと
電線にうなる風の音
身に沁みる音だ
ひとり聞いている
がらんとした広い街中を
冬の風が吹き抜けてゆく
砂塵をあげて
遠い遠い
春を待つ心のせつなさだ
荒涼とした野道の日暮れ
昭和十三年一月
吹きつのる烈風のなかを
遮二無二僕は歩いている
何かに苛立ちながら
口のなかがじゃりじゃりする不快さ──
砂塵の街を
せかせか歩いて
僕はどこへゆこうとする
ポケットのなかで
握りしめている手が汗ばんでいる
烈風をつきぬけつきぬけ
僕は歩いている
凍るようなからっ風だ
烈風だ
そのなかを
僕は歩いている
ただ歩いている
昭和十四年一月
渡辺順三『烈風の街』
本棚を整理していたら、上のようなものが出てきた。渡辺順三について詳しいことは知らない。ただ、大学時代の友人のカヨちゃん(世田谷在住)と話していたとき、「あ、それ、あたしのおじさん。」と言うのでびっくりしたことがある。「なるほど、東京というのはそういう所か」
別件
今朝はとつぜんのようにセミの声がほとんど聞こえなくなった。
散歩をしていると、卒業生のおばあちゃんと会う。おじいちゃんともどもチビたちを可愛がってくれる。
──センセ。やっとマトモなとができたから、階段のところに置いときます。
──近くに畑があるんですか?
──はい、もう2時間くらい働いてきました。
散歩から帰ってみると、階段に、30cm級のナスビが5本も置いてあった。