世界不況への備えとしてのTPP

2011/11/13

RCへ

 ひさしぶりかな?
 水曜日に仕事を終えて、飯塚に帰った。
 木曜日は、母親の心電図をとる日。グループ・ホームと契約をしている看護婦さんが待っていてくれた。この人がグループ・ホームから受け取る収入は、月に4,500円。もう天使のような人だ。その人の運転する車で病院の行き帰りいろいろお喋り。どうやら嘉穂高校の後輩らしい。母親の心臓は、一年半まえと変わらず、問題なし。「荒木さんは大丈夫ですよ。鉄の心臓ですから。」と言っていた介護士さんの予言どおりだった。
 金曜日は、犬たちを連れて天草に一泊旅行。目の前が砂浜の「ペットと泊まれる温泉宿」。インターネットで調べたら、数ヶ月先まで満員。姉たちが埼玉から帰って来る日がたまたま空いていたので予約した。心配していた天候もまずまず。チビたちは部屋から砂浜にほぼ直行できるので大興奮。何度でて行っても、「また行く」。お陰で、帰りの車の中ではおとなしかったこと。夜中もほとんどまともに眠っていなかったのだろうと思う。
 先週、小学校の同級生で、まだ損害保険会社の現役からメールが届いた。ある外国人外交官が、今回のTPP騒動を幕末の攘夷運動に、東電の幹部達と官僚を陸海軍人に喩えたという。なかなかいいセンスをしている。
 TPPが一部の農業に破滅的な影響を及ぼす可能性は十分にある。が、開国以来いろんな産業や企業が姿を消し、また別の産業や企業が興って、この国は繁栄してきた。今回もまた、生き残る智慧はきっと出てくる。いつかこの国には、『茶の本』にある、「芸術を愛し、眠っている国」に戻ってほしいという切ない願望はあるが、それが可能になるときが来るにしても、まだずいぶん先の話だ。
 いま欧州でおこっている経済の混乱は気になるが、まだリーマンショックよりはましに見えるから、なんとかなるだろう。が、今後はもっと深刻な混乱がどこかで起こる。そのときのための準備は、われわれ個人もする必要がある。なにせもう金利生活しか道がなくなるのだから。ましてや、国家として、その準備を怠るようなことがあってはならない。
 そういや若い頃、兄貴に「日本はもういい加減儲けたのだから、そろそろ金利生活に切り替える頃だ。」と言ってやたら怒らせたことがある。が、そのあと起こったことは、「右肩上がり」がまだ続くという考えの愚かさを示すものだった。これからはもっとそうだ。
 「現在のような国債残高になることは目に見えていたのに、なぜ放置していたのか」という質問に、「またバブルがおこれば帳消しになると考えていた」と正直に答えた政治家がいるという。たぶんそれが本音のところだろう。が、もうバブルは起こらない。いや、正確にいうと、景気が良くなることはあり得ない。世界の市場が極端に狭くなってしまったからだ。これからは、「年間数百万が海外旅行にでていく不景気」と、「大半の者が実感を感じない好景気」の間で、なんとか食いつないでいくしかない。次の新しい市場を創るための努力はなされているのだろうが、地球そのものが狭くなってしまった。これ以上の人口増加にはもう世界経済が耐えられなくなる。
 前世紀までなら、これくらい行き詰まったら、あとは戦争をした。それで、いったんシステム自体をスクラップにし、ヨーイドンでまたゼロからやり直す。成長と繁栄にそれは欠かせないものだったように見受ける。が、もはやその手段は封じ込まれている。
 それでも無理矢理名目経済を拡大しようとするなら、インフレしかない。それもスーパーインフレ。それによって国家の借金はちゃらになり、疲弊しきった地面から資本主義が不死鳥のように蘇る。そんなシナリオしか思いつかない。その間に世界の人口が一割減るのか、2割減るのか。が、準備を怠るわけにはいかないが、そんなことになるのは願い下げだ。
 それよりも、世界同時不況の可能性のほうが高い気がしてきた。(ということは、むしろデフレになることのほうが可能性が高いということになる)そのきっかけは、ユーロ圏の解体になるのか、それとも中国の解体か。ひょっとしたら、その二つが同時並行的に進むかもそれない。ドイツやフランスは、自分たちが創ったユーロ圏をどうやって保たせるかよりも、自分たちの傷が最小限度におさまる「ユーロ後」への行程と構図を考え直しはじめているはずだ。もし、そうしていないのなら、それはただメッケルやサルコジは無能だというに過ぎない。
 中国の場合にいたっては、もともとあんな大きな国が一国にまとまっていることのほうが不自然だ。しかし、中国の解体は、「いい気味だ」で済むことではない。中国の混乱は、世界経済にきわめて深刻な影響を及ぼす。それは単に物が売れなくなって不景気になるとかいう次元ではなく、世界的な信用不安、世界の経済・金融システムの瓦解に直結するからだ。中国がデフォルト状態に陥ったら、統一王朝から離脱しようとする地域が続出する。この前、車に二度もはねられた子どもの映像が流れていたが、あれがもともとの中国社会だった。そこにあっさり先祖がえりする。その時、中国国家が抱えていた債務への支払い義務を引き継ぐ当事者はいなくなる。(それも、あの国の、もともとの姿だ)それが目に見える以上、世界はどこも中国のデフォルトを防ぐために援助をしようとはしない。そんな金は砂漠にまいた水のように跡形もなく消えていく。ただ、各企業、各自治体、各資源に対しての債務肩代わりへの申し出は殺到するだろう。「中国の切り売り」がはじまる。それも、もともとの中国社会だった。
 次回の世界的大不況の震源地はたぶん、そのヨーロッパと中国になる。
 ごく近未来に(つまり、われわれが金利生活をしているうちに)起こりそうな状況はそんなふうに見える。そのときのために、この国はたっぷりと余力を蓄えていなければならない。その「この国」とは、国家と企業と個人をさす。その三つともが潤沢な資産を蓄えておく必要がある。
 話が長くなった。消費税値上げによって、いまのうちに国債の債務残高を減らし、年金資金を確保しておく必要がある、と考える根拠です。「埋蔵金」や日銀の金庫をいまからあてにしているようでは、国家百年の計どころか、10年後がもうアブナイ。日本で最大の大企業は日本国なのです。われわれはその大々企業の小々社員なのです。国家を単なる共済組合、それも破産することがあり得ない組合であるかのような議論には加わることができない。
 TPPは貪欲なアメリカの本性丸見えの構想だという意見には賛成する。が、日本が単独で生き残りを図るのには無理がある。組む相手、信用度の高い相手とは、その欲望や意志ををむき出しにしている国のほうだ。そういう相手とのほうが話が出来る。
 ヤルタ会談のあと、ルーズベルトが日記に書いたとかいう言葉を思い出す。
 「アフリカはフランスやイギリスにくれてやる。東ヨーロッパはロシアにくれてやる。アジアは中国にくれてやる。アメリカには、太平洋があればじゅうぶん食っていける。」その他のさまざまな複雑な要素もあるだろう。しかし、大戦後のアメリカの生き残りのための基本戦力は揺らいでいない。その露骨さがオレには「アメリカとなら、次のサバイバルゲームに耐えられる」安心感につながっている。というか、そのほかの選択肢が日本にあるかのような議論が不思議だ。日本だけではない。実はアメリカにも選択肢はひとつしかない。だから信頼関係が築けるのではないか。

別件
 夕方の散歩の時、カンナちゃんとその友だちに会った。チビたちは喜んで近づいていく。人見知りのガロも、もうカンナちゃんには甘えようとする。「もうカンナちゃんのことを覚えたごたあね。」というと、カンナちゃんの友だちが
──この人だれ?
──おじちゃん。