シングル・ナイト
シングル・ナイト
※表題は、ロバート・マクナマラ『Fog of War』からとった。
Ⅰ朝をまつ呪詞
昭和十九年「批評」三・四月合併号目次
中島敦について・・・中村光夫 明治の精神・・・西村孝次
?外の歴史文学・・・吉田健一 (詩)霧島高原・・・平野仁啓
西行・・・堀田善衛 堀田君の応召を送る序・・・山本健吉
(詩)水のほとり・・・堀田善衛
前年十一月号「石田波郷君の応召を送る文」で
君が大東亜の戦野に・・・・銃を取ってゐる間、私は再び俳句に就て語るまい。
と書いた山本健吉の編輯後記
「読者諸氏へ」
今般、文芸雑誌の整理統合に依って、「批評」もこれまでのやうな形で出せないことになった。従って、今月号を最後として、もはや一般小売り書店には出ないことになる。
昭和二十年一月
ガリ版刷りの新「批評」が出るも二月号で消える
発行所 東京都牛込区払方町三四 吉田方
この国が戦争に負けて以来
ぼくたちは自由になった
歴史からも
国家からも
親からも
自分のことばからさえ
記憶と憧憬が交雑し
過去は闇に塗りこめられ
未来は光に漂白されて
自分と現在だけが残る
がほんとうにそうだろうか
それは戦後だけのことなのだろうか
時間はジグザグに進んでいく
──進んでいるのか?
ぼくたちはギザギザに進んでいく
──進んでいいのか?
なつかしい気配はたしかにもうすぐそこまで来ているのに
2012/1/30
Ⅱ夜をまつ呪詞
なたね梅雨の前触れかと思われた雨がとつぜん雪に変わった夜に
菜の花が雨にいっそう輝きをました光りを列車から見たその日
風の音はやんだようだ
雨音はまだつづいている
置き時計の針が外界の物音と静寂をすべて吸いこんでゆく
たぶん何百日目かの目ざめた夜
午前二時
時はすでに過ぎた
もう誰も帰ってこ
ない
残された時間は
ない
空白はどこにも
ない
時間は存在では
ない
いつ始まったかわからない時間と
いつ終わるのかわからない時間のさなかで
カミが過ぎってゆくのをカミに気づかれないようさりげなく待ちつづける人々
これからも滞ることなく繰り返される祭り
──質量とは動きにくさをあらわす数量である
祭りに質量はない
だから祭りは現実的である
存在に資料はない
だから存在は失われようがない
存在とはひとつの状況だ
ぼくらもひとつの状況だ
存在のなかの状況と状況
状況のなかの存在と存在
だが
遅れてこなかった「人間」がこれまでにひとりでもいたか!?
ぼくらの祭りを祀るとき
ぼくらの時をまつ夜
永遠の
シングル・ナイト
2011/2/28