騙され上手になったとき人間は人間になった

2012/10/26(金)

 昨日の朝の散歩。下の公園まで戻ってきたら、母ピッピが坐りこんでしまった。なにせ10歳だから、坂道をのぼってくるのもひと苦労だろうと思い、しばらくほったらかしていたが、いつまでたっても動かない。そこで、
──ピッピ、お父さんは今日お仕事。
 というと、ひょいと立ち上がって帰りだす。そのタイミングが絶妙。
──ピッピは偉いもんねぇ。
 ガロは、さいきん自己主張が出てきたとはいえ、母ピッピが動き出したら慌ててついてくる。めったにいないくらいに頼りあっている義理の親子だ。

 前の学校に百済君がいたのは前に報せた。今度の学校には栗巣野君がいる。と気づいた次の日、姪浜に回って、昼飯はどうしようかと思っていたら「牡蛎フライ」の看板を見つけて入った。そこで注文を取りに来た女の子は「申」さん。しかも、「明日みんな死ぬんだべ。死ぬんだべ。」の津島恵子(こんな字だったかな?お安らかに。大好きでした。)の代わりが務まりそうなくらいに、なんとも美しい。「シンさんとお呼びしていいんですか?」ぱっと手で胸の名札を隠してからうなづいた。なかなかいい風情だった。
 「シン」じたいは、高校の英語の先生は新先生だったし、母方のおばさんは進さんだったから別に珍しがる必要はないんだが、このところ、「眞」「心」「辛」とシン系にこだわっていたので、これまたタイミング抜群。ほかにも「シン」がないかどうか、いつか調べてみよう。

 三年生は問題集ばかりやっている。ベネッセのやつだから、模試を集めたものかもしれない。その内容は、みごとに玉石混淆。(まえに送った、森本哲郎の文章が入っていたのは第一学習社。あれはけっこう気に入っている)
 人生の無駄遣いを避けるために、金子郁容という男の名前を覚えた。この男の名前があったら飛ばす。
 かんたんに言うと以下のような内容。
 「インターネットがほんとうに個人を解放するためには、個々人の努力には限界があるので、攻撃されやすい情報提供者を保護するためのシステムを構築する必要がある。そのシステムができたときに、新たな社会が生まれる。」
 いじめられやすい人を保護するためには、個々人の努力では限界があるので、いじめられやすい人を保護するシステムを構築する必要がある。そのシステムができたときに、新たな社会がうまれる・・・・。
 その新しいシステムで情報提供者を保護することに成功した社会とは、具体的にどんな社会なんですか? アナタはその社会で生きていけますか? オレはいやだね。
 なんも考えておらん。知性の欠如してる典型例。

 「玉」のほうの長谷川寿一「『奇妙なサル』に見る互恵性」はコピーを送ります。
 「人以外の動物は、模倣がきわめて不得手であることが知られていますが、皮肉にも、人はサル以上に「サル真似」の達人であるようです。」
 文中の「皮肉にも」は大衆性を持たせるためのレトリック。人間の人間たる由縁をその模倣にみるのが長谷川氏。
 「人は動物界では例がないほど、他者を信じやすく(裏を返せば、騙されやすく)、他者による影響や呪縛から逃れられない生物のように思えます。」
 その通りだと思うよ。「騙され上手」になったということがそのまま、「文化を手に入れた」ということなんだもんね。
 「人の本性とその由来を知ることは、けっして無駄な試みではありません。生理学が医学に、物理学が工学に、生態学自然保護運動に礎を供するように、人間性にカンする生物学的理解はモラルの在り方を論ずるときに基本的視座を与えてくれるものなのです。」

別件
 Fから、尺物のニジマスを釣ったという報告が届いた。北海道の川はまだそんなに豊かなのかと感動した。
 釣り歴40年だから以前とは比べものにならないとはしても、Fの腕がそんなにいいとは思えない。ただ、「ここらへんならいそうだ」というカンが発達してきたのだろう。
 このカンというやつは、生きてゆくうえで、論理的思考などよりははるかに頼りになる。というより、論理的思考なんてまったくアテにならないし、間尺に合わない。(若い頃の義兄いわく「考えていて仕事になるか!!」あれはきっと、ペェーペェーだったころ上司から怒鳴りつけられた鬱憤を「いまだ」と弟に向かって吐きだしたのだ)
 自分の頭の悪さにホトホト嫌気がさしていたチクゴタロイモの場合は、ごく早い時期に「カンを鍛えよう。それでしか先生には対抗できない。」と決めた。「思いつきでものを言うな!!」と言われてもへこたれなかった。この決断はかなり効果的だったと自負しているし、いまも自分のカンを頼りに暗中模索をつづけることが出来ている。つまり、カンは論理的思考とちがって、恒久的有効性をもちつづけるのです。ただ、生徒には「カンでいけ」とは言えないから「自分の感性を信じろ」と言い換えてはいるけど。
 森本哲郎『書物巡礼』からの孫引き。
 イギリスのことわざ。「もっとも信頼に値するものが三つある。老いたる妻、老いたる犬、そして貯金」なんという現実主義。
 ノブタンマ心せよ。キリギリスでもなくアリでもなく、リスのように賢く、熊のように悠々と生きましょう。
 F,G,s、おれ達はイギリス人より欲張りに「老いたる友」と付け加えような。