右膝ピンチ

2013.2.28
 Sへ

 メールを送ろうとしたら、そちらから先に届いた。
 ユミちゃんも明日卒業。
 スケベ爺さんとしては、ちょっぴり寂しくなる。
 昨夏、「四人の子持ちになりました」と暑中見舞いをよこしたやつは、超田舎者の純朴なやつだったが、東京に出てすぐ、同級生が「センセイ、××が大変なことになってます。」と報告にきた。本人がいないときにアパートにきて、パンツを洗って帰っている女がいる、というのだ。笑ったね。いったん家を出たら、親はもう諦めなさい。そいつのこぶつきの結婚式は実に楽しかった。
 先々週からか、右膝が痛みはじめて、我慢しているうちに歩けなくなった。もともと右膝は若い頃から時々痛むので、逆に馴れているつもりだったのに、あんなにつらくなるとは思ってもみなかった。昨夜は風呂上がりにバンテリンを右脚全体にすり込んで寝た。気のせいか今日は少し楽。どうやら回復途上。老化は下半身からですな。あああ。
 動けない間はテレビばかりみていた。さいわいノルディック選手権があっていたので、16歳の高梨サラを何回も見られた。「もうそれ以上大人になんかなるな!大人なんてツマンねぇぞ。」。浅田真央もそうだけど、演技や表現以前の、彼女たちの内面にひかれる。
 映画も、メリル・ストリープマーガレット・サッチャー』など数本。ヘレン・ミレンの『クウィーン』も良かったな。
 そのなかの一本にあった台詞。
──お袋は、必死になって働いていた。帰りは毎日遅かった。お袋が帰ってくるのを待とうと我慢するんだけど、いつも眠ってしまっていた。、、、。ところが、あるとき、そのお袋が早く仕事を切り上げて帰ってきたことがある。きっと、今日こそオレのその日のことを聞こうと思ってたんだ。でも、お袋がドアに近づいてくるのがわかると、オレは眠っているフリをした。お袋があきらめて出ていくまで、ずっと眠っているフリをしつづけた。きっとオレと話したかったはずなのに。
 『バンド・オブ・ブラザーズ』(対独戰争)や『パシフィック』(対日戰争)をつくったスピルバーグトム・ハンクスのの原点『プライベート・ライアン』。でも、そのドラマチックな筋書きよりは途中で交わされる兵士たちの会話のほうが印象に残った。彼らの戦争物の基調にあるのはそんなワンシーンだ。そのシーンだけでいいから、生徒に見せたいと思った。いや、これは、なんらかの形でまた生徒に語りかけをしよう。
 思いだした。
 以前にも書いたことがあるかも知れないけれど、『石狩挽歌』の歌手に次のような歌がある。
──子供の頃、オヤジはいつも飲んだくれていた。オレはそんなオヤジが嫌いでいつもさからってばかりいた。あるとき、いつものように喧嘩になり、オヤジが「出ていけ!」と言いやがったので、「出ていってやる!」と家を飛び出したきり何十年も帰っていない。
 その間にオレも大人になり、結婚し、子供もできた。そうなってみたら始めて分かる。あのときオヤジはオレを憎んでいたのでは決してない。ただ、疲れていたんだ。
 この歌をも一度聞きたいと思うんだけど、題名が分からない。去年の須恵高校で話したら、男の子が「インターネットで調べた」と、その歌手の全曲の題名を書き出して持ってきてくれたが分からない。友人の部屋でいちど聞いたきりだから、あるいは歌手を覚え違いしているのかもしれない。
 そうだな。平安時代の「あはれ」は、現代語では「せつない」がいちばん近いかもしれないな。

別件
 授業中に2年生が、
――先生、ちぢんだろ?
――うん。
――そうやろ? はじめん頃は巨人ごと見えよった。