比ガ里荘便り2013,07

2013/07/01
 山小屋にいってきた。
 周辺の紫陽花の青さは、10数年まえに行ったウィンダミアの湖畔の紫陽花を思いだしたほどにじつにきれいだった。あそこの風景も、水彩でなくては描けない。(紫陽花は日本原産だと読んだ気がするがホントかな?)
 庭のヒメシャラの花盛りにはじめて出会えたのがいちばんの満足。
 草原ではカヤクグリのふわふわ飛ぶ姿とさえずり。なんど聞いても現実感のない鳴き声。望遠レンズつきのデジカメがほしくなってきた。

 そして、今回も、オーナーの今村さん語録。
 二時間ほど話がつづいたが、一度聞いた話がひとつも混じっていないのに感心。「こんど来たら、あの話をしよう」とプランができていたのかもしれない。
 今回のテーマは「命と継続」かな?
●16才のときまでいっしょに暮らした牛がおった。田おこしだけじゃなく、山の上り下りの荷物の運搬もいっしょにやった。なにせ五ヶ瀬は山国じゃから。月に二十日はいっしょに働いたんじゃなかろうか。その牛が10才になって、もうどうにもならんようになって、セリにかけた。トラック(当時の呼び名は聞き取れなかった)につめこまれた牛が、発車するときこっちを振り向いて鳴いた。じぃっとワシを見てですな。それから鳴いたとです。その目が今も忘れられんでですな。
●犬は、ダックスフント。足の短いとがおるでしょうが。あれを3匹飼うたことがある。それを連れて山の仕事に行った。あいつ等はわざわざ道じゃない藪のなかを通りたがった。ああ、それでわざわざ足の短いとを作っとうとですか。「道を通れ」ちゅうても聞きゃせん。
 それがですな。帰り道の下り坂は降りきらんとです。足が短かすぎるとですな。いちいち抱えてやらにゃならんかった。
 26才のときには、土佐犬を飼うた。そりゃ、ぶりっとした奴で、「ワウ」ちゅうとだれもがびくっとなるほどの奴でですな。もし外にかってに出ていったりしたらオオゴトじゃ思うて気を使うた。それが、ワシにだけはようなれた。ところがですな、しだいに気が荒うなって、飯をやろうとしたときにちょっと手前にひいたら、「飯をとられる」思うたとでしょうな、ガブっと腕にかみついた。それからは飯をやるのにも気をつけにゃならんようになって、とうとう保健所にひきとってもろうた。動物の教育ちゃむつかしいですな。
●この猫は、ムスコどんがどこからか拾うてきたやつじゃ。やせこけた子猫で、生きのびらるるじゃろかと思うたけんどが、無事に大きゅうなった。元気のいいころはいまの3倍くらいも食った。相手がでけて子どもも3匹産んだ。けんどが皆しんで自分だけが生き残っとる。もう19才です。人間なら90才以上ですな。100才? そりゃない。
 毎晩、眠いのを我慢してここにおる。ワシが布団にはいるのを待っとるとですたい。それが可愛ゆうしてですな。ほら、いまは早う膝に乗りたいとを、じっと我慢して膝掛けをかけるとを待っとる。これがないと、ずり落ちそうになったとき爪をたてられたら痛うしてですな。はい、いいぞ。
 80を過ぎたら、死ぬことそれじたいはそれほど怖くはなくなった。けんどが、長生きはしてみたい。90までは生きてみたいですな。
●年金が5000円へる? そりゃセンセイの年金がすくないからそれですむとですたい。ワシは数万円へってしまう。
●この間、熊本に行ったらですな。隣の製材所が静かになっとる。ずうっとあの音を聞いて暮らしよりましたから、それが静かじゃと寂しゅうしてですな。自分で製材もしきりますばい、三台動かしよった。木を切り倒すとも上手なもんでしたばい。「いくらも金はかからんとじゃから」ゆうて、一台だけですが、動かさせよります。いまはマゴどんの研修用ですな。
●センセイとこのベランダはマゴどんがよう頑張った。自分で製材してカンナをかけた板を、自分で張ってゆく。そうするとですな、それまで、5時になったらピシャッと仕事をやめよったマゴどんがですな、6時も6時半も、きりのいいところまで黙々とやるとですたい。ひとの用意したもんじゃなかもん。自分でつくった板じゃもん。その動機づけが大事なとですたい。
 あいつは人から信用される人間になる。セイセイもそう思う? そりゃうれしかですな。けんどが、それだけじゃ生きていかれん。「したたかさがないと生きられんとぞ」とマゴどんには言いふくめよるとですたい。
●ムスコどんが「家を手当したぶんも何万円かもろうたら?」ちゅうたけんどが、それはサービス。ほかの者が働いたぶんはキチンと貰います。
●毎週お母さんに会いに行きよらす? そりゃ良かこと、ぜひ続けんば。そのうれしい顔はですな、心からうれしいとです。ほかには何もない。ただうれしいとです。ワシの父親も最後のころはそうやった。
●このごろ外国人が増えてですな。そこでいっちょ英会話の勉強をしようと思う。スピード・ラーニング。それですたい。こんど熊本のムスメどんに頼うで買うてもらおう。待ってください。ス、ピード、ラア、ニング。スピード・ラーニング。よし。
●代金の振り込み手数料は差し引いといていいです。そうですな。オイ、椎茸と五ヶ瀬のお茶をもってこい。これを手数料ぶんのかわりにしょう。
●長いこと引き留めましたな。さいきん来るひとが減ってですな。ありがとうござした。はい、また会いましょう。

 人間には「自分の物語」が必要だ。
 ただし、その「物語」とは、Taleではなく、 Storyでもなく、もちろんNovelなどではなく、Narraitionなんじゃないかと思う。 

別件
ガロの頭のてっぺんが薄くなってきた。
「そんなところまで、お父さんの真似をせんでいいとゾ」