てのりくじら 抄

枡野浩一 てのりくじら

前向きになれと言われて前向きになれるのならば悩みはしない

殺したいやつがいるのでしばらくは目標のある人生である。

無理している自分の無理も自分だ、と思う自分も無理する自分

肯定を必要とする君といて「平気平気」が口ぐせになる

本当のことを話せと責められて君の都合で決まる本当

とりあえずひきとめている僕だって飛びたいような夜だ

階段をおりる自分をうしろから突き飛ばしたくなり立ちどまる

口笛を吹けない人が増えたのは吹く必要がないからだろう

振り上げた握りこぶしはグーのまま振り上げておけ 相手はパーだ

ついてないわけじゃなくってラッキーなことが特別起こらないだけ

ハッピーじゃない だからこそハッピーな歌を作って口ずさむのだ

気づくとは傷つくことだ 刺青のごとく言葉を胸に刻んで

無駄だろう?
意味ないだろう?
馬鹿だろう?
今さらだろう?
でもやるんだよ!

誰からも愛されないということの自由気ままを誇りつつ咲け

陳腐だと言いたいときは「普遍性のある」と翻訳するのが決め手

平凡な意見の言いわけをしておくための前置詞「やっぱ」

「たとえば」とたとえたものが本筋をいっそうわかりにくくしている

もっともなご意見ですが
そのことをあなた様には言われたくない

冗談はさておきという一言で気づきましたよ 冗談ですか

「ま・いいか?」と他者にたずねるふりをして自問自答であきらめていく

四百字ぶんの枡目をうめるにも足らぬ三百六十五日