立ち木仏

いくら読んでも偏差値は上がりそうにない学習プリント

  今月の詩                  2015.12月

 二年生がシンガポールに行っている間に、小倉からフェリーに乗って四国の川之江に行ってきた。平家落人伝説のある切山地区の集落から離れた森の中にあるという「立ち木仏」に会って、撫でて来たくなったのです。

切山

 立木仏というのは、フツウに生えている木に仏像を彫ったもので、日本独特の文化のひとつ。他の国なら永久保存用に石に彫る。ところが日本では地面から生えている木に彫る。その仏像は、風雨にさらされるからだけでなく、木が生長していくにつれて輪郭が曖昧(あいまい)になっていき、さらに木の皮の部分が生長して(木は外側の部分が生長する)仏像を覆い隠していく。たぶん我々の祖先は、そんなことをちゃんと知った上で、あえて立ち木に彫る方を選んだ。
 石の文化と樹の文化。
 変わり続けながら残りつづけるものを私たちは命と呼ぶ。
 地図で見て、駅から徒歩一時間半ぐらいだなと見当をつけて歩き出したのはいいが、いつまで経ってもそれらしい所に辿りつかず、何度も「もう諦めようか(携帯を使って駅からタクシーを呼べばすむ)」と思いはしたものの、そうなると半分以上は意地で登り坂を歩き続けていると、思いがけないところに立て札があった。「ここから右下に下りて行きなさい。」歩き出して三時間半経っていた。
 やっと出会えたお地蔵様をみんなの分までいっぱいいっぱい撫(な)でてきたから、来年はきっといいことがあると思う。
          

 話だけでは分かりにくいだろうから、切山の立ち木地蔵菩薩の写真を載せます。
 右側が300年前に彫られたもの。その木(エゴの木と言うそうだが、触ってみると非常に硬い木だった。)が枯れてしまったので、今から40年ほど前に四国観音寺市在住の荻田文昭という人が、新たに傍に生えているエゴの木に彫ったものが左側。


 ついでに、これはポスターを撮影したものだが、スペインの巡礼地にある立木観音も載せておきます。切山の立木地蔵を見た神父さんが「ウチにも彫ってくれ」と言うので、荻田さんがスペインに出かけて彫ったのだそうだ。「どの木でもいいのか?」「好きな木に彫ってくれ。」巡礼者たちはその観音様に十字を切って行くという。

 冬休みには、福井県に残っているという銀杏の樹の観音様に会ってくるつもりでいます。(願いが叶った時は、三学期に報告する)
 その樹は400年の間に成長し、観音様はもう手が届かない高さになっているらしい。でも、爪先だったらお御(み)足ぐらいは触れるかもしれない。

 10月末だったと思う。
 独身時代によく行っていたイッチャンのジャズ喫茶に行ってきた。「ジャズ喫茶って何?」という者も多いかと思うが、二昔前にはそんな文化があったのです。
 店に入ると客は誰もいなくて薄暗い。私を見るとイッチャンは少しだけ灯りをつけ水を持ってくる。「コーヒー。」イッチャンは黙って肯(うなづ)いてカウンターの向こう側に消えていく。(忘れとるとかいな?)
 そのうち音楽がが流れ始めた。1960年代のものだ。ピアノに合わせてしわがれた声で女の人が歌っている。「Who am I?」女の人は何度も何度もそう歌う。(横道の横道。イギリスの犯罪物を見ていると、運転免許証などの身許を確認できるものが何もない時「 Identyfy him ! 」 「Yessir!」アイデンティティーは評論用語というわけではない)
 「これ何ちゅうLPね?」
 「CD。ニーナ・シモン&ピアノ。ぼくのいちばん好きな歌なの。」
 イッチャンは私のことをすぐに分かったのだ。そして、再会の気持ちを一枚のCDで表してくれた。(ジャズ喫茶を「文化」と呼んだのはそういう意味です) 
 聴いているうちに「この声は何度も聴いている」と気づいた。
 家に帰って(帰り着いたのは深夜)だいぶ酔っていたのだけれど、ガサガサ探したら出てきた。
 同じくニーナ・シモン『Everything must change』
まだ若い(つもりだった)頃、繰り返し聴いていた歌だった。

  Everything must changed,
Nothing remains the same.

 君たちにはまだ少し早すぎるかも知れないけれど、今月はその歌詞を紹介します。
 高校生はみな『方丈記』を読み、「無常観」を学ぶ。でも、「無常」は仏教徒の専売品でもなんでもない。生きている者たちすべての現実。リアルなのです。私たちの祖先はただ、そのリアルを突き抜けた向こう側に行きたいと願っていたに過ぎない。 
 家庭的には恵まれなかったらしいニーナ・シモンの伝記映画がこんど福岡にも来るそうだが、観にいくかどうかは只今思案中。


Everything must change

  Everything must change
Nothing remains the same
Everyone must change
No one and nothing remains the same

Now it comes your way
All mysteries do unfold
Cause that's the way of time
Nothing and no one remains the same

There is so little left in life you can be sure of
Expect the rain comes from the clouds
Sunlight from the sky
And the humming birds do fly

Now it comes your way
All mysteries do unfold
Cause that's the way of time
Nothing and no one remains unchanged

There are so little things
So few things in life you can be sure of
Expect the rain comes from the clouds
Sunlight from the sky
Humming birds do fly

But things change
Everything in the end
Everything must change