17才

 いくら読んでも偏差値は上がりそうにない国語プリント

今月の詩                  2016年2月


「ずっと18歳になるのを待っていた。」大坂なおみ
──初のグランドスラム全豪オープンテニスで3回戦に進出。予選から数えて6試合目で元チャンピオンに完敗した。──

 「夕焼け小焼けの赤とんぼ」という童謡は知っていることと思う。
日本人は赤とんぼが好きだ。たしか四月には寅さんの渥美清の俳句を紹介した。

     赤とんぼじっとしたまま明日どうする

 そのアキアカネの数が極端に減っているというので「どげんかせんばいかん」アキアカネに必要なのは里山なのでそうです。
 いつ頃のことか記憶はまるっきりハッキリしないが、あの歌を「赤とんぼが若い頃のことを思い出している歌」と思い込んでいた時期がある。
 「夕焼け小焼けの赤とんぼ 追われてみたのはいつの日か」
 子どもたちをからかって「やあい、追いついてみろ!」と追いかけられてみた時のことを思い出しているんだとばかり思っていたのだ。
 たぶん文字を覚えたあと(現在の国語教師は、小学校に入るまで文字なるものを知らなかった)「追われてみた」なのではなく「負われてみた」なのだと知って、「なあんか!」。姐(ねぇ)やにおんぶされていた幼いころのことを回顧している歌だった。
 でも、赤とんぼが人間をからかったときのことを思い出しているほうが楽しいんだけどなあ。

 小学校では、正岡子規の俳句を習った。

 いくたびも雪の深さをたずねけり

 「作者はどうしようとかね?」と訊かれたので、「はい! 雪が珍しいので、どのくらい降ったのか測るためにゴム長をはいてズブズブ歩いてみたとです!」。
 先生は笑って「違う」と言う。作者は病気で寝ていたので、家族に「どのくらい降ったか?」と何度も質問したという句なのだという。(そんなこと、どこにも書いてないやん!!)
 いまでも、あの句をはじめて知ったときのワクワク感が甦る。なぜならゴム長をはいて何度も雪の深さを確かめに外に出たのは自分自身だったからだ。「正岡子規ちゃ良か!!」

 友人たちは「お前は、勘違いと思い込みのかたまりだ。」と言う。
 先日の新聞に伊奈かっぺいさんが「子どもの頃あることがあって以来、もうホントのことなんか言ってやるもんか思った」と書いているので「面白い人だ。」と記事を切り抜いていた。しばらくたって、「子どもの頃のエピソードはどんなことだったかな?」と切り抜きを取り出してみると、伊奈かっぺいさんはどこにもそんなことは書いていない。
「なるほど、オレは、勘違いと思い込みの塊だ。」
 でも、人間をからかう赤とんぼを想像したり、ゴム長で雪をずぶずぶ踏みつけるワクワクを思い出して共感するのは楽しい。私はいまも「正しいことと、楽しいこと」のどちらかを選べと言われたら、、、。いつの間にか、楽しいことばかりを選んでちゃ生きていけないという知恵を身につけてしまっとるなあ。

 小学校5年の時、卒業式に参列するために『蛍の光』を教わった。
蛍の光 窓の雪(それを「蛍雪の功(けいせつのこう)」という。知らなかった者は国語便覧で確認しておくこと)文読む月日かさねつつ・・・明けてぞけさは別れ行く」。その「ゾケサ」が分からなかった。「は」の前だから「ゾケサ」は主語(名詞)のはずだと思い込んだのだ。
 それが解決したのは中学二年生になってから、高校生だった姉の古文法の教科書を借りて、自分で勉強をはじめた時だった。「なあんか、ゾ、も、ハ、も係助詞ちゅうとたい。ゾ今朝ハ、げな。」
 解決するとなにか拍子抜けして、損をしたような気がした。だって「ゾケサ」への恋が冷めてしまったのだ。夜目、遠目、傘の内、スカーフ、マフラー、背中、逆光、ゴーグル、マスク。恋をするには「謎」が必要なのです。

 今月は1971年にリリースされた『17才』を紹介します。
 大人の作った歌なのに自分自身のことばのように歌う南沙織にはちょっとした感動を覚えた。「このひとはほかの人とはちょっと違う」
 彼女はその後さっと引退して主婦になった。
 それからずいぶんたった頃、NHK紅白歌合戦に引っ張り出したことがある。もうお母さんになっていた彼女(本名は知りません。でも息子がタレントになっているそうだから君たちのほうが知っているかもしれない)は、まるで初めて歌うときのように新鮮に歌った。「やっぱりこのひとはほかの人とはちょっと違う」
 実は南沙織と親戚だという友人がいるので、「サインをもらってくれ」と頼んだら「お安いご用だ」と言ったきり、それから数十年間なしのつぶてだから、これを印刷したらその男にも送って約束を思い出させるつもりです。
 ひょっとしたらそのうちサイン入りの写真が送られてくるかも知れない。もしそれがお孫さんを抱いている写真だったりしたら最高に楽しいんだけど。
     17才       有馬三恵子

     誰もいない海
ふたりの愛をたしかめたくて
あなたの腕をすりぬけてみたの
走る水辺のまぶしさ
息も出来ないくらい
早く 強く つかまえに来て
好きなんだもの
私は今 生きている

青い空の下
ふたりの愛を抱きしめたくて
光の中へとけこんでみたの
ふたり 鴎になるのよ
風は大きいけれど
動かないでね おねがいだから
好きなんだもの
私は今 生きている

あつい命にまかせて
そっとキスしていい
空も海もみつめるなかで
好きなんだもの
私は今 生きている
私は今 生きている
私は今 生きている
私は今 生きている