あぶらやま不定期通信〈3〉

 あ ぶ ら や ま 不 定 期 通 信 3  
  2016/06/09
 前回『ドラえもん』を引用してて思い出したことから始めます。(実はあとひとつ理由があるんだけど、それは、おいおい分かる)
 小松左京(1931〜2011)というSF作家がいた。『復活の日』『日本沈没』はベストセラーになり、映画化された。(日本列島はじつは少しずつ隆起(リュウキ)している。だから「日本列島が沈没ていくことに如何(いか)に説得力を持たせるか苦心した。」とSF作家は語っていた。)『復活の日』の主役は北九州出身の草刈マサオ(日曜日のNHK大河ドラマで堺××の父親を演じている人)、『日本沈没』のほうはもと仮面ライダーが主役だったと記憶している。
日本沈没』はじつは後編が構想されていた。
 後編では、日本が沈没したあと、海に投げ出された人々がボートピープルになり世界中に離散(リサン)──それを広い意味で「ディアスポラ」と呼ぶことがある。──
 でも後編はとうとう完成しなかった。想像力豊かな人だったから可能だったはずなのに。きっと、日本人がほかの土地で心豊かに生きていく姿を説得力をもって描ききれなかったのに違いない。
 「だったら、やめた!!」
 小松左京という人は、そういう本当の意味で優しい人だったんだと思っている。

 その小松左京に『ゴエモンの日本日記』という小説がある。
 宇宙人のゴエモンが迷子になり、たまたま日本というところで正太君のような男の子と出会う。(名前を忘れたから「ショウタ」にしときます。)ショウタは気が良くて、親に隠れてゴエモンの面倒を見てやる。そのあいだにさまざまな珍事件が起こるんだけど全部省略する。やっと親と連絡がとれてゴエモンは宇宙に還っていくことになる。
 愉快な経験をさせてくれたショウタへの感謝のしるしに、「三つの願いを叶えてあげる」とゴエモンが申し出る。ほんとかなと思ったショウタはまず小さなことを頼んでみる。(これも何だったか忘れたから適当に創作する)「この水筒のなかのお茶をジュースにしてみて」なんだそんなことか「チチンプイ」呑んでみるとジュースになっていたのでショウタは信用していちばん願っていたことをゴエモンに頼む。
「世界中の爆発物をぜんぶ爆発しないようにして。」
「任せとけ。チチンプイ
 とつぜん世界中の鉄砲も爆弾もすべて爆発しなくなる。
 戦争をしていた国は困る。こまった挙げ句(あげく)に、槍(やり)や刀で戦争を続けることにする。槍や刀が間に合わなかったところでは棍棒(コンボウ)と石を使って殺し合いを続ける。戦争をしていなかった国まで、警察官の鉄砲から弾丸が発射されないことを知ったヤンキーたちがハジけ回り、ギャングがのさばり始めて、世の中はむちゃくちゃになる。
 その悲惨な状態をニュースで知ったショウタは「自分のせいだ」と悩んで、ゴエモンに三つ目のお願いをする。「やっぱり爆発するようにして、」─地球人の考えることは良うわからんなぁ。─ほんとうにそれでいいんだな?と、ゴエモンはまた「チチンプイ
 「じゃぁな。これまで親切にありがとう。楽しかったぜぇ。」

 賢明(ケンメイ)な君たちはもう、老教師が急に『あぶらやま通信』を出したくなった動機(ドウキ)に気づいたと思う。

 原爆の開発に関与したノーベル物理学賞受賞者アインシュタインは、のちに次のように述べている。
 「第三次世界大戦がどう戦われるのか私にはわからない。しかし、第四次世界大戦ならわかる。それは、石と棒で戦われる。」

 先日、アメリカのオバマ大統領が現職大統領としてはじめて広島の平和記念公園を訪れ、花を捧げるのを、テレビの実況中継で黙って見ていた。オバマ大統領のしたこと(日本がアメリカにしたことやアメリカが日本にしたことまで含めて)についてはアメリカでも賛否両論あったというし、日本でもいろんな感想や意見があると思う。
 「博工生に、50年前に読んだ小松左京の小説を紹介しよう」。
 議論はそのあとでいい。

 でも、『ゴエモン』の結末は悲観的に過ぎるから、あとひとつ50年前に読んだ、もう題名も忘れてしまった短編小説を併(あわ)せて紹介する。
 作者はショートショートの名人星新一(1926〜1997)です。
 時は2×××年。宇宙連(地球人が知らないだけで、宇宙にはそういう組織があるのです)は重大な決定を下(くだ)した。「地球という星に住んでいる連中はいまだに戦争をやめない野蛮な生き物だ。これまでは、自分たちどうしで殺し合いをやるだけだったから放っておいたんだが、地球人はとうとう宇宙に進出する科学技術を手に入れた。このままにしていたら彼らは宇宙に戦争を輸出するようになるから、その前に絶滅させる。」
 そのミッションを与えられた二人の宇宙連軍パイロットは生命破壊装置を搭載(トウサイ)した空飛ぶ円盤で秘密裏(ヒミツリ)に地球に到達する。着いた上空は日本という地域だった。空から自分たちが数秒後に死滅させる生命体を見ると、みなは楽しげに挨拶(アイサツ)を交わしている。
「メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」
なかには男同士で肩を組んだり抱き合ったりしている者もいる。
 ──おい、聞いてきた話とえらく違うぞ。地球人はみな仲がいいじゃないか。
──うん。俺たちよりも幸せそうにしている。
 悩んだ末にふたりは決める。
 「このまま還って、宇宙連には、地球人を死滅させてきましたと嘘の報告をしよう。どうせ次の平和検査があるのは百年後だから、オレたちのしたことがバレて軍をクビになったりする心配はない。」
「うん、そうしよう。こんなに楽しそうにしている地球人を殺したりなんか出来ないよ。」
 空飛ぶ円盤は、人間がだれも気づかぬうちに宇宙に戻ってしまう。
 そのころ地球の日本という地域では会社帰りに一杯やったサラリーマンたちが大声で話をしている。
「メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」
「オレたちはバカなんじゃないかな。仏教徒のくせにキリスト教徒の真似なんかして喜んでいる。」
「うーん。でも楽しかったからいいじゃないか。それに、あんがい神
様は、オレたちの知らないところでキリスト教徒じゃない者まで救ってくださっているのかも知れないぜ。」
「そうかなぁ。ま、いいや、早く家にケーキを持って帰んなきゃ、子どもたちから恨(うら)まれる。じゃ、またな。メリークリスマス!!」
 
 司馬遼太郎(1923〜1996)という小説家を尊敬している。かれはその晩年に次のように書いた。
 「ほんのちょっと前まで世界史は日本を無視して書けた。でも将来、世界のひとが〝日本という国があってよかった〟と思うようになるときが来るかもしれない、ということを想像するのは楽しい」