飯塚語一覧

今月の詩
       2015年9月号

「懐かしい筑前の言葉」募集中

 教員になりたての頃、「あのひと上手いねぇ。」という生徒のことばが耳に入ってビックリしたことがある。「若者は天才だ!」
 名詞の「上手」に「な」をつけて形容動詞として使い始めたのはいつ頃からなのか?今度はその形容動詞を形容詞にしてしまった。言葉はそういうふうにして増え、飽きられたものは消えてゆく。
 生まれ育った町に帰った時、本屋に立ち寄ったら「筑豊の方言」という本があったので開いてみてガッカリ。「まだまだたくさんあるぞ。」
 私にとっては生まれ育った場所のことばが母語。ふだん教室で使っているのは外国語みたいなものなのです。
 いや君たちだってバイリンガルなのだ。先生に対して話すときと自分たち同士で話すときとでは、敬語を使う使わない以前にまずその語彙(ごい)が違う。
 じつは、近代に入って以降、この社会を支えてきたのはそのバイリンガル達だった。
 首都圏の人口ばかりが増え、モノ(mono)リンガルだらけになりつつあることへの危機感が私にはある。が、その話はまたいつか。

 思い出すまま懐かしいをアイウエオ順に並べてみた。──中には「我が母語」と思いこんでいる標準語もあるかもしれないし、記憶違いもあるかもしれない──私の故里と福岡は山一つ隔てただけの同じ筑前の国だから、共通語もたくさんあったのではなかろうか。君たちはもう知らなくても、お爺ちゃんやお婆ちゃんに訊いたら色々思いだして下さるかもしれない。だから、今のうちに、
──懐かしい筑前の言葉募集中!
 言葉数が増えたらも一度発表します。

あのですね=東京に出て行って最初に受けたカルチャーショックは公衆 電話ボックスに忘れた財布を交番に受け取りに行った時のお巡りさんの 言葉「コンナ事って滅多にないんだよ。これから気をつけなきゃ」。
 ふたつ目は「アラキです」と何度言っても「ああアダチさんですね」と 返事をされたこと。
 三つ目は「あのですね」と言うと周りの者たちがゲラゲラ笑いだしたこ と。(こいつらゼッタイ好かん!)
あんぽんたん=かぼちゃ頭≒ピーマン。
イケ好かん=※人間に対してだけ女の子が使っていた。
いっちょん=少しも○例「いっちょん分からん」
言わせん=言葉で言い表せないほど良い
インキョ=ビー玉で行っていたゲームの一つ。ルールは「ゲートボ ール」にそっくり。(たぶん説明の時間順が逆)
うち=私(女性の一人称)
えぐい=苦みが強い。いがらっぽい。○転「あの先生えぐかぁ」
えずい=怖い ○古「怖(お)づ」
えらい=大変だ。○例「先生、昨日の宿題はえらかったぁ。」
おうじょする=往生する?=物事がはかどらない。
おえん=どうしようもない≒のさん。
おちょくる=からかう
おまる=室内用の携帯トイレ
おらぶ=大声を出す。
〜カ=○例「赤カ、きつカ、睡カ、さびしカぁ」⇒(場所によっては「〜サぁ」○例「赤サぁ、きつサぁ、眠サぁ、さびしサぁ。」)
かてる=加える○例「ねぇ、かててぇ。」「かてちゃらぁん。」
ガラれる=怒鳴りつけられような叱られ方をする。
ギタギタ=脂っこい。
ぎっこんばったん=シーソー
黄(き)ない=黄色い○例「黄粉(きなこ)」「黄臭(きなくさ)い」
ぎゅうらしい =大仰(おおぎょう)だ。口うるさい。
〜きる=〜出来る。○例「夜一人でトイレ行ききる?」「行ききらぁ ん。」
〜くさ=○例「あのクサ、昨日クサ、おれがクサ、」
〜ぐっちょ=〜ごっこ。○例「走りぐっちょ」
〜ゲ=所・家「こんどの日曜日先生ゲに行こう。」
〜ゲナ=〜だそうだ。
けんぱた=「けんけんぱたぱた」の略=石蹴り遊び⇒Sケン=S字 型のけんぱた、だが、こちらは集団格闘技。
グラグラこく=めちゃくちゃに腹が立つ。=怒り心頭に達する
〜げな=〜だそうだ。
こさぐ=削る
〜ごたる=〜のようだ。
(ご)ひな=ニナ(蜷)──川蜷のことか? 海蜷は?
こわい=固い。○例「おこわ御飯」=強飯(こわめし)⇒手強い
こわる=筋肉が固まる。○例「肩がこわった」
サムサムが出来る=鳥肌がたつ。
三角野球=一塁と三塁だけの野球
〜シコ=〜だけ全部。○例「持てるシコ持て。」
しこたま=いっぱい。
しまえる=終わる。
シビンタ=ニッポンバラタナゴ(ちっちゃくて美しい淡水魚)
じゃかましい=やかましい。
しょんなか=仕方がない。
しろしい=ひどく鬱陶(うっとう)しい。○古「著(しる)し」⇒印
地べた=地面
スウスウする=寒気がする。
スカ=空くじ
スカす=間合いをはずす。
カタンこく=期待や間合いを外される。
好かんたらしい=嫌みだ。
すらごつ=空言(そらごと)=嘘。
スランパ=お金や景品を賭けない勝負。
すわぶる=むしゃむしゃしゃぶる。
からしい=邪魔くさい。
せく=堰く=(戸を)閉める。
そうつく=うろつく。○例「こら○○。職員室の前をソウツくな。」
ぞうたん=冗談
〜タイ。=(相槌を打つ言い方)
たがえる=違える。○例約束をたがえるなよ。
だだがらい=塩味ばかりがきつい。
〜たもない=〜たくない。○例「今日は宿題やらしたもない」
〜チ=〜と○例「何チかんチ言うても=なんと言っても」
○例「〜ちゅうても=〜と言うても」
たまげる(魂消る)=ひどくビックリする。
接(つ)げる⇒番(つ)がる⇒(御飯などを)つぐ。
つましい=慎(つつ)ましい。
つんのうて行く=連れだって行く。
でやす≒ぼてくらかす=ボコボコにする。
〜てろ、〜てろ=〜やら、〜やら。
でんぐり返る=ひっくり返る。
どげん・そげん・こげん・あげん=どんな・そんな・こんな・あん な
トゼン(徒然)ない=手持ちぶさただ。
どっちみち=どの道=どうせ。どっちにしても。
とっとうと=取っていますよ。○例この席(私が)取っとうと。
どべ(たん)=泥(濘)=でい(ねい)
トンピンつく=はしゃぎまわる
〜ない=〜しなさい。○例「ここじゃのうて家で宿題しない」
なおす=整理整頓する
なし?=なぜ?
なぜる=撫でる
ナバ=キノコ
ナメる=軽く見る。○例「西陵をナメんなよ。」○古「なのめ」からか?
なんかかる=寄りかかる
何かなし=何となく。どうでもいいから。
にあがる=調子にのる○例「ちょっと偏差値があがった位でニアガるな!」
にくじ=意地悪。
ねまる=腐敗する。
ねぶる=なめる。
のうたりん=脳みそが足りない。
〜バイ。=(念を押す言い方)
ばさら(か)=たくさん。とても。○古「婆娑羅≒ヤンキー≒横道者 (おうどうもん)?」
パッチン(場所によっては「ペタ」「ぺったん」)=「おはじき」「ビー玉」 とならぶ子供賭博の道具。めんこ?⇒写真パン
ばって(ん)=しかし○例「ばってん、、、もう良か!」
はわく=掃く
腹かく=怒る
腹がせく=腹具合が悪い。
 子供の頃、腹具合が悪くて病院に行ったら先生が「キュウっと痛む?キリキリ痛 む?グリグリ?チクチク?シクシクかな?」と質問した。(この先生すごい!)
はんかない(はんくない)=生半可(なまはんか)じゃない。
ひだるい=ひどく腹がへる。
ビックリしゃっくり=ひどく驚く。
ひょうくれる=悪ふざけをする。
ふうたぬるい=とろくて、じれったい。
ぶうたれる=ふて腐れる
べた(に)=平らに。直(じか)に。
ほかす=ほったらかす。
ほんなこつ=本当に
ぽん菓子=ポップコーンの類。
間尺に合わん=間に合わない。
まる=排泄をする。⇒古事記を読んでいたとき、『○○の命   (みこと)クソまり給ふ時』とあったのでビックリ。「まる」は由  緒正しい言葉だったのだ。
まんぐり=間合い。都合。○例「マングリが合わない」
モオシ=申し=ごめんください。
もやい=共有すること○古「舫(もや)ふ」
やおい=やわらかい。
ヤオじゃない。=困難だ。
よこう=憩(いこ)う。休息する。
ラムネん玉=ビー玉


 7月号に載せた、クレーの「忘れっぽい天使」を覚えていますか?
 この秋にあの絵が兵庫県に来るのを知ったので、連休を利用して見にいってきます。まだ画集で見ただけで本物を見たことはないのです。
 ただし、私には、メチャクチャに好きになったものには触りたくなるという病癖がある。(本当は誰でもそうなんじゃないかな。ただ他の人たちは我慢しているうちに、それが習慣になってしまっただけなんだ。私だって満員電車のなかでその病癖を発揮したことはまだない。)
 もし、連休明けになっても私が姿を見せず、世界的名画に触って逮捕された老人のニュースを聞いたら「ああ、先生はとうとう本望(ほんもう)を遂げたんだな」と思ってください。