ドーリス・デリエ

2013/01/01
 とりとめもなく書いてゆく。
 ほんとは明日の午前中、頭がはっきりしているときに書こうと思っていたのだが、よく考えたら明日は、箱根駅伝を応援しなくてはならない。わが明治は、往路で最低5位以内につけておかないと、来年へのシード権が危なくなる。ここ数年ハラハラのし通しだ。

 『レ・ミゼラブル』を観てきた。子どもの頃みた絵本ほどの感動はなかった。いや、子どものときは、感動というよりはショックそのものを受けた。そのショックは教会の場面に尽きる。今回の映画は、いわば「それからのジャン・バルジャン
 観たくなったのは、鹿島氏の文章の影響が大きいのだが、その文章を読んでいるうちに思いだしたことがある。
 子どものころ絵本を読んだのち、何歳ぐらいのときだったか、『傷だらけの巨人』というラジオドラマを断続的に聞いていた。その「それからのジャン・バルジャン」のイメージが、高校のときに書いた『泥だらけの晴れ着』という、さすがの国語教師も顔を赤くしたくなる題名のお芝居の主人公になったんだな。それぐらいラジオドラマは迫力があった。いまはもう、あんなレベルのラジオドラマは作ろうにもできない。なにより俳優がいない。『傷だらけの巨人』を制作していたのはどんなメンバーだったんだろう?
 今回の映画は、すばらしく歌の上手な人たちだったけど、あれが世界中でヒットしているのなら、人々の幼稚化は日本だけではなく文明国全体で同時進行している現象のように思う。(だいたい、ミュージカルというもの自体がそうだ。歌舞伎はたんなるミュージカルじゃござんせん。なんでもいいから、中村勘三郎追悼の舞台中継を見てください)
 舞台と映画の違いはあるが、博多座で観た『ミス・サイゴン』のほうが心に残った。たぶん、よりシンプルだったからだと思う。あのときはカーテン・コールが止まず、とうとう筧××が出てきて、
──お客様ありがとうございます。しかし、私たちはまだこれから夜の部があるんです。もう帰ってください。
 あのおばちゃんたちの大爆笑を忘れない。
 その『ミス・サイゴン』を仕掛けた連中が、二匹目のドジョウをみごとにひっかけたらしい。
 映画で記憶に残っているのは、小さなコゼットが森に水をくみにいくときうたった歌。美しい旋律で、まえにも聞いたことがある気がした。それと、コゼットの恋敵を演じたサマンサ某の女っぷり。コゼットよりよほど魅力的だった。マリウスはなんであんな女に心を奪われたのかな。それに、そのマリウスが『大聖堂』の主人公を演じた俳優だったこと。カナダのマイレル・チャンと共通性を持つ不思議な笑みを浮かべる。あれはオリエンタル・スマイルだと思っていたけど、もうイギリス人のほうが上手だよ。

 あとふたつ付け加える。
 市街戦のあとの場面で、バーバーのアダージョが聞こえてきた気がした。まえにも、たしか『ドレスデン』の大空襲のあとの場面でも、おなじ曲を聴いている気がした。
 もひとつは、人間が建て物からぼろぼろ落ちるシーン。
 学生時代、はじめて韓国に行ったとき、映画上映のまえに『ベトナムからの手紙』というタイトルがついているニュース映画を見た。(見に行ったのはソヌヒ『火花』)サイゴン陥落のとき、ヘリコプターにぶら下がっていた人々が空からばらばら落下してゆく様子や、船腹に貼り付いていた人々が海にぼろぼろ墜落してゆく様子のモノクロ無声映像だった。(あるいはカラー撮影されたものを、意識的にモノクロにしたのかもしれないなあ。)「友よ、国がなくなるということはこういうことなのだ。」日本ではあの映像は公開されたのだろうか?
 読売だったかにパク・クネについての小さな囲み記事があった。父親が殺されたという報告を聞いたとき、彼女はまず、「軍事境界線に変化は起きていないか」と訊いたという。
 いまだったら、質問されたほうは、あわてて確認に走るだろう。日本もそうだ。

 山田洋次の『東京家族』の舞台は見損なってしまったけど、たぶん見なくてよかった気がする。その映画版のチラシをみたら、もう見る気がしなくなった。『東京タワー』のチラシを見たときも、キキ・キリンの表情をみてバカバカしくなった。もう俳優のレベルがあのころとはまったく違う。笠智衆や東山千恵子だけでなく、中村伸郎、大阪志郎、それにあのべちゃっとしたしゃべり方をするおばちゃんは誰だったっけ? ―いま気になったからスマホで確認。杉村春子。ほかにも長岡輝子東野英治郎。―あの人たちは、ナマの人間を演じることができた。あれらの名優たちがいたからあの何ということもない世界的ホームドラマができた。(中村伸郎は反対に、シナリオの台詞をみて、「これはただごとじゃない」と身が引き締まったという。「ナマのことばが書かれている」。名人たちが仕掛けたことを、名人たちが受けとめた。)
 『東京家族』はいいけれど、ドーリス・デリエの『hana-mi』は見てみたい。レンタルにはない、な。
 『リヤ王』が日本にわたって『東京物語』になった。アメリカにわたった『リヤ王』は『ハリーとトント』になった。ドイツ人の受けとめた『東京物語』をぜひ見てみたい。4本連続上映なんて企画をするところはないのかな? 

 大晦日の新聞に載っていた中村伸郎の俳句。
   除夜の鐘オレのことなら放っといて

 元旦に出てきた駄句
   元旦もインスタントコーヒーではじめる

別件【1】
 朝の散歩のときに、初詣で帰りのモモのお父さんにあった。
──何歳ですか?
──7歳と10歳です。
──はあ。ウチのは16歳でした。ちょうどクリスマスの日に亡くなりました。毎年いっしょにお詣りに行きよりました。去年は抱いて石段をのぼりました。さみしいですなあ。けど、もう飼われんですしなあ。こんどは私のほうが先に行かにゃならん。

別件【2】
 飯塚にあるカウンターだけの定食屋で早めの昼食をとっていたら、おばあちゃんがどこからともなく姿を現した。
──野菜炒めを200円ぶん作って。
──朝ご飯を食うとらんと?
──食うたよ。
──もう腹が減ったとですか?
──生きとったら腹は減る。ほら、笑いよんしゃろが。